21世紀対応の「やる気」づくりのバイブル
木下勇 著
2007/05
 
『ワークショップ――住民主体のまちづくり方法論
学芸出版社(定価2,520円、2007.01)

 本書はワークショップを、人類の知として蓄積されてきた未来を創造する方法として捉え直し、ホンマモンの住民参画のまちづくりのプロセス・デザインのバイブルのような中身をはらんでいる。その特徴としては、@21世紀対応型であること、A手法と原理の二本立てであること、Bシステムとドラマの両立であることにある。
 先ず、21世紀対応型という意味では、自分らしさから離れた感のする疎外が社会全体に深化した状況に対して、人間的・空間的・制度的に疎外を克服し、住民主体のまちづくり実現の方法としてのワークショップが位置づけられている。加えて、今日安易な「紋切り型」の横行によるワークショップの危機を越えるために、ワークショップは人びとの「やる気」づくりを通して、「個人の創造性が集団内で相互に作用しあうことから集団の創造力を発揮していく方法である」ことを肝に命じ、その実践的展開の具体的内実を緻密に論じている。
 次いで、手法と原理の二本立てという点では、世界的視野からワークショップの過去を重層化させつつ、未来のあり方を示している。例えば、「やる気づくり」、「意識化」の理論的淵源はクルト・レヴィンのアクション・リサーチや、ヤコブ・L・モレノの心理劇や、パウロ・フレイレの識字教育論などにあり、情動・キモチがエンジンオイルのように作動するために、演劇的身体的なワークショップが行われることを示す。ローレンス・ハルプリンのRSVP(Resource資源、Scoreスコア、総譜、Valuaction価値評価、Performance実行)サイクルの手法が発動する状況の解明も示唆的であり、現代的手法への根拠を明らかにしている。「主体が目覚める」「創造的に前へ進む」ワークショップの手法と原理の照応関係の読みは鋭く深い。
   いま一つ、システムとドラマの両立。ワークショップに使われるスコア(具体的手法)が30点一覧表として整理されている。そうした系統的手法のシステムは、現場の状況に応じてどのように軽妙酒脱にドラマティックに進行し、創造的提案の共有に至るかを生彩ある事例分析によって深められている。意識がワープ(飛躍)し、未来への確かな衝撃(ショック)がないとワークショップとはいえない。「ワークショップ」とは「ワープショック」なのだ。
 ワークショップで大切なことは「誰ひとり落ちこぼれ」をつくらずに、みんなが「やる気」で次なる方向感を分かち合うことである。そのことを実現するためのプロセスマネージャー、ファシリテイター、ロジスティックス(後方支援)などの役割と態度について懇切丁寧に語られており、読者はたちまち「その気」になる。なぜならば、全頁著者が大学院生のころから今日までの約30年間にわたる多様な実践と深い理論に裏づけられ、かつ自らの巧みなイラストに彩られているからである。この本には著者の肉声と住民の笑い声が響いている。住民・研究者・実践者・行政・企業などあらゆる人びとにお薦めしたい快著である。
(愛知産業大学・延藤安弘)

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