本間義人 著
2007/05
 
『地域再生の条件
岩波新書(定価777円、2007.01)

 わが国の国土計画等は1960年代から一貫して、地域格差の解消を目標に展開されてきたが、その解消には至っていない。それどころか地域格差は拡がるばかりであり、このことは従来の政策では地域を再生することは不可能であると指摘している。
 第1章で、地域再生を図る上での地方自治体を取り巻く状況や、なぜ地域が衰退したかについて整理が行われている。また、今までの政策等には、地域再生に何が必要なのかというコンセプトが見当たらないこと、地域の実情にあったコンセプトを追求することなしには地域の再生はあり得ないと指摘し、地域再生が目指さなければならないコンセプトとして以下の4つを挙げている。
 第一に、すべての人びとの人権が保障された地域につくり直すこと(第2章参照)、第二に人々がその地域の仕事で生活できることを再構築すること(第3章参照)、第三に自然と共生しうる地域に再生すること(第4章参照)、第四に霞が関等の思惑ではなく、そこに住む住民自身が地域再生の主役にならなければならないと指摘し(第5、6章参照)、真に地域を再生させるあり方について、具体的な事例を交えながら問題提起がなされている。
 これらの問題提起から、国家が優先してとるべき政策とは何か?について、真剣に議論すべき時期にきていると考える。議論することにより、例えば、被災者生活再建支援法の「居住安定支援制度」が、被災者が最も望んでいる被災住宅本体の補修や建て替えに使えるシステムになるのではないだろうか。
 第2章では「高浜市居住福祉のまちづくり条例」を、第3章では、福岡県で地域の特色を生かした農業を確立することによって、まちづくり、地域づくりにつなげようという意図を持った「福岡県農業・農村振興条例」を、第4章では、公共事業によっ
  て生じた自然破壊から自然を再生すること等を目的とした「自然再生条例」を制定した埼玉県志木市における取り組みを紹介している。第6章では、それぞれの地域の特色を土台に、住民との協働により地域の再生に取り組まなければならないこと。そのため、全国一律、画一的な関係法令では限界があり、条例は、地域などが描いた将来目標等を実現していく上で有力な武器になることを、具体例を挙げて説明している。
 第7章では、国の再生策によって、地域の再生は望めないこと。地方自治体と住民の新しい関係「協働」から、地域再生への新たな動きが始まることを期待しつつ、地域再生のカギを握るのは、最終的には地域の自治体と住民自身であると指摘し、地域独自の価値観を協働で追求しうる、自治体、議会と住民による政治システムがつくられるのを待望するとある。
 地域再生の主人公は、住民である。しかし、地域再生は、他の地域の犠牲に頼ってなされるべきではなく、また、韓国ソウル市で高速道路を撤去し清渓川を再生したような発想の転換が求められている。
(大阪市立大学・能勢 温)

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