鈴木浩 著
2007/06
 
『日本版コンパクトシティ――地域循環型都市の構築
学陽書房(定価2,940円、2007.02)

 コンパクトシティは最近の都市政策で使われる用語のうちでも、最も多義的な言葉の一つである。かつて、この言葉は、人口密度1000人/ haという高密の立体都市(16層にも重なる人口デッキに200万人が住む)を表したが、現在では、日本の40人/haほどの都市に対しても用いられている。もちろん、40人/haという人口密度は、常識的にはコンパクトとは言いがたいが、これ以上密度が低くなるとまともな都市サービスに支障があるという観点からコンパクトシティという言葉が使われているようにも思える。実際、コンパクトシティを提唱しているのは、地方都市が多く、そこでは、掛け声とは裏腹に、都市の拡散や、場合によっては縮小が起こっているから、コンパクトシティはいわば地方都市再生の願いのこもった指針である。しかし、本当に下限を定めて、それ以上疎にならないような政策が可能なのか検証するのは容易ではない。
 本書は、多義的なコンパクトシティに、日本の現実を踏まえながら一つの方向性を与えようとしている。それが「日本版コンパクトシティ」という表題になった。コンパクトシティというテーマは、日本では中心市街地活性化論とともに形成されてきた。数十年にわたって継続してきた都市の郊外化が、ついに中心部の本格的な衰退を伴って進みつつあるという危機感が、都市をもう一度中心部に芯を置きつつ再編しようという考えを促している。
 本書は、こうした現実をいくつかの都市や県で取られている先駆的な政策を手際よく紹介することによって浮き彫りにしている。福島県は県条例で大型店の郊外立地に歯止めをかけようとした例であり、都市計画法の改正で同趣旨の大型店対策を施した国の制度改正に先んじたものとなった。都市では、青森市、神戸市、長野市が取り上げられている。これに富山市を加えれば、コンパクトシティ政策を掲げる主要な自治体が網羅されることになる。
  そして最終章では、「日本版コンパクトシティの実現をめざして」として、EUのサステイナブルシティを先例に、日本版コンパクトシティの11の政策原則がまとめられている。特に強調されているのは、行政、産業界、市民・NPO、専門家、マスメディアのパートナーシップである。合意形成やコンパクトシティ政策の実施にあたってもこれらが円卓について、協調することが都市再生に不可欠であると述べている。地方都市では若い人の流出が目立つだけに、円卓会議に若い世代が参加して、議論することを通じて、その都市で力を発揮してみようと考える人が増えることが大事である。
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<目次>
第1章-コンパクトシティとは何か
第2章-中心市街地をめぐる現状と課題
第3章-まちづくり三法とコンパクトシティ
第4章-福島県商業まちづくり条例
第5章-自治体計画におけるコンパクトシティ
第6章-日本版コンパクトシティのための課題
第7章-日本版コンパクトシティの実現をめざして
(東京大学・大西 隆)

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