ジェフリー・E・ヘインズ 著、宮本 憲一 監訳
2007/06
 
『主体としての都市――関一と近代大阪の再構築
勁草書房(定価6,720円、2007.02)

 本書は2002年、カリフォルニア大学出版部から出た「The City as Subject : Seki Hajime and the Reinvention of Modern Osaka」の邦訳本である。著者のジェフリー・へインズ氏は、オレゴン大学の助教授としてアメリカではもちろん、日本においても群を抜いている関一研究の専門家である。本書は1982年の著者の来日から20年間にわたる関一研究の総決算であり、また、今までの関一研究の集大成でもある。
 本書の意義は、その前半において、関一が独自の人民主体の国民経済論の構成を考え、家族を基盤とする都市・国家論をつくりあげる思想の形成を明らかにしていることである。
 周知のとおり、関一は日本の近代化には、資本主義による工業化・都市化は必然であり、そのために最も重要な交通を重視した。しかし、彼は単に物流・人物の交通を考えたのではなく、コミュニケーションのような精神・文化の交流による近代化を考えていたのである。
 また、関一は都市政策の目的を「住み心地よき都市(アメニティ)」にあるとしている。そしてこれまでの近代都市計画が道路中心の美観主義にあるのに対して、住宅中心の実用・衛生主義になければならないとしていた。著者はこれをどのぐらい実現したかとして、都市近郊地域につくられた労働者住宅の状況を追究している。
 その他、大大阪の創造と労働者に対する社会的責任のとれる都市政策などその思想の形成過程が克明に描かれている。
 本書の翻訳には著者の来日の際、指導役を担っていた宮本憲一・前滋賀大学学長と宮本氏の研究グループが担当した。本書の背景で面白いことは、原書では大正から昭和初期頃の文献はもちろん、関の独自の概念を著者が独自の英語で翻訳をしていて、それを再び現代の日本語に翻訳して表現している点である。そこには、大正・昭和の変革期に新しい大阪の近代都市像をイメージしていた関の考えが、生々しく描かれ、また絢爛たる記号論の修辞語で解析されている。
  そしてその描写は今に生きている大阪の市民に関の思想を蘇らせ、大阪再生のあり方に大きな投げ石を投じてもいる。都市の再生は、単なる行政の効率化・コスト削減・競争での勝ち抜きなどの観点でやり遂げるものではない。都市再生のあるべき姿は、その中にある市民の再生であり、都市に対する市民の気高い思想の再生でもある。それを支えるための行政の再生、都市計画の再生を訴えている。 著者も述べているとおり、本書は関一の伝記であるが、単なる伝記ではない。日本の近代化・近代都市、民主主義に富んだ市民が都市に息を吹かせて再生の道を開くことを夢見たある社会改良主義者の壮大な交響曲である。今に生きる人々には、その過去のロマンと夢を通じて今に生き返らせた真の都市再生と都市政策の根幹に改めて思いをはせるのであろう。本書を通して新たな大阪の再生を期待したい。
(大阪市立大学・金 淳植)

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