吉川富夫 著
2007/06
 
業績測定による地域経営戦略』
溪水社(定価7,350円、2007.01)

 行政評価と都市政策、という異なるテーマが、アメリカではどのように結び付けられているかという興味深い問題を解き明かしてくれるのが本書である。
 著者がまず論ずるのが、近年のアメリカ都市政策の中心的テーマである成長管理、スマートグロースである。分権化された政治・行政システムをもつ米国においては、伝統的に地域経営の主体は地方政府(郡政府、自治体など)であり、加えて広域的な調整を行う必要性から、州政府も地域経営に関与してきた。その最大のテーマがGrowth Management(成長管理)であった。1990年代に入って、Smart Growth(スマートグロース)の考え方が登場し、「コミュニティを誘導し、設計し、開発し、再生し、建設する」という、地域経営の観点がさらに色濃くなった。
 スマートグロース政策は多様な手段で実施される。米国の地方政府の地域経営のための主たる政策手段は土地利用規制(具体的には、ゾーニング、敷地分割、総合計画)などである。伝統的には土地の用途や容量などが事前確定的に定められ、個別の開発に対してそれらが厳格に適用される方式が支配的であった。しかし時代とともに、規制内容を柔軟に認めた、計画的一体開発、フレキシブル・ゾーニング、開発権の移転などの方式が編み出され、さらに開発利益の公共還元などの負担条件付き規制への政策展開も行われた。なぜ規制内容を柔軟にしたのかというと、土地利用規制を「手段指向」から「目的指向」に政策転換するためである。そしてこの目的指向を表現し規制を管理するために「業績基準」が不可欠の要素となったと著者は述べる。
   本書は、米国各州の中で、成長管理についての豊富な実践経験があり、また業績測定に基づく政府経営改革に熱心に取り組んできたオレゴン州、フロリダ州、ワシントン州について理論面と実証面から分析している。この中でオレゴン州の成長管理では、「ベンチマーキングとコミュニティ戦略計画」と「部局経営型業績測定と部局戦略計画」を統合し、首尾一貫したアカウンタビリティの体系化を実現したことで評価できるとする。
 こうした米国コミュニティにおけるガバナンス構造の変化は、1980年代以降の国際化、情報化、高齢化、規制緩和、小さな政府指向などの国際的諸潮流の中で生まれてきたものであり、その意味で、今日まさに同様な環境に置かれている日本のコミュニティにとっても本書から汲み取れる教訓は少なくない。
(編集部)

書影イメージ
※著者名の表記について
「吉」の漢字は、正しくは上部が「土」の形

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