新潟県中越地震(2004年10月23日)の復興に関する本書を読んでいる間にも、岩手・宮城内陸地震(08年6月14日)が起きた。被災体験を風化させずに記録し、課題を抽出して、次に起こりうる災害のダメージ軽減や速やかな復旧・復興にいかす……この取り組みこそ、被災者らの心の復興にもつながるのではないか。
本書は、中越地震の発生から丸3年のタイミングで、地元・新潟大学の教授である著者が、丹念な被災者アンケートと聞き取り調査の結果をもとに「地域の人間関係(コミュニティ)」に焦点をあてて、復興の課題を考察・整理したものだ。対象や時期を変えて、それぞれ2回ずつ行われたアンケートと聞き取り調査の分析は、町内会のリーダーや仮設住宅で暮らす人たちが、混乱の中で何を考え、どう動いてきたかを知る上で貴重な手がかりとなる。
都市型災害だった阪神・淡路大震災(1995年1月17日)と比べて、中越地震は地域コミュニティがしっかりしていたため混乱が少なかった、というのが通説になっている。本書の中でも、被災直後に住民らが自然に寄り添い、水や食料を分け合い、高齢者ら災害時要援護者への目配りも忘れなかったことが、地域リーダーの証言などから実証されている。
興味深いのは、著者が、このような「顔の見える」コミュニティの意義を評価しながらも、閉鎖性・排他性という影の部分や、担い手の偏り(男性ばかりで女性や若者の参画が少ない)などの課題にも、きちんと言及していることだ。災害を機に伝統的なコミュニティに対する過度な期待や美化・礼賛が行われがちな中、著者の「生きのびるためのリソースのひとつ」という客観的な評価は、逆に新鮮で、阪神・淡路大震災を取材した私の感覚にもしっくりくる。
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発生直後の混乱時に、強いリーダーのもとで統率された行動を取ることは重要だが、復旧・復興の段階では、個人の意見が尊重にされなければならない。それが許されるコミュニティであるかどうかがポイントだろう。被災生活を支えるのは、家族や近隣、各種グループや団体など、重層的で多様な関係で、ひとつの集団や価値観によってまとめあげられる必要はない、という指摘も、実に的を射ている。
本書の核となっている調査について、著者はあとがきの中で「被災者の負担になるのを危惧し、逡巡した」と告白している。地元消費者協会の後押しで実現したようだが、このような記録が残せて本当に良かったと思う。地元に根ざした調査だったからこそ、被災者の本音も聞き出せたのだろう。例えば、被災を機に離村を決めた人が感じている後ろめたさや、復興のモデルケースを唱える専門家と、元通りの暮らしを望む被災者とのギャップなど、通り一遍の調査ではつかめない“声”が拾い上げられている。
投げられた課題を、どう受け止めるのか。読後に、大きな宿題を課された気分になった。 |