地域の基幹産業である農林業の衰退、人口流出による過疎化と高齢化の同時進行。昨今注目を集める「限界集落」が直面する諸問題をいち早く経験してきたのが人口約2,000人、高齢化率も5割に迫る徳島県上勝町である。戦後半世紀で人口が3分の1まで減少した「四国で一番人口の少ない町」の名を全国に広めたのが、本書が紹介する全国最多34分別によるゴミのリサイクルや高齢者の手による葉っぱビジネスなど、私たちの常識を覆すような独自の知恵と工夫による住民参加のまちづくりである。
本書の特色は、毎年人口の2倍以上の視察者を受け入れる上勝町で他地域でも例を見ない試みが生まれた背景を、農産物や石油製品の大量輸入など戦後日本が経験してきたグローバリゼーションの歴史とオーバーラップさせる形で紹介していることである。
器の中に季節を表現する日本料理に欠かせない「つまもの」。鮨屋で木の葉や野の花といった「つまもの」を愛でる客同士の会話をヒントに、地域資源の葉っぱを活用した「彩」事業は、現在全国市場の8割を占め年間売上2億6,000万円規模の産業に人口の1割が従事している。特筆すべきは、生産者の9割が女性でしかも平均年齢70歳の高齢者たちが、仕事を通じて地域に貢献していることである。ここでは、生き甲斐、経済力、自信を取り戻した高齢者たちが働くことで自らの健康を維持するという、今後の高齢化社会が理想とする姿がみられる。
|
|
生ゴミを飼料、木製品を燃料にする生活を基本としてきた上勝町では、ゴミ処理に税金は使わないという信念のもと、生ゴミ全量の堆肥化やゴミの34分別で町内ゴミの約8割を再資源化している。これらの経験から生まれたのが「すべての環境問題はゴミ問題である」という発想である。日本の自治体初の「ゼロ・ウェイスト宣言」を出した小さなトップランナーは、化石燃料の大量消費を前提とした生活を改めゴミの発生を抑制するために、生産者がゴミを有価で回収する義務を負う「(仮)資源回収法」の提案により、日本の環境行政に一石を投じるとともに、世界の環境産業革命をも先導しようとしている。
本書は、小さな農山村の再生モデルの紹介にとどまらず、世界初の持続可能な地域社会のモデルづくりを目指す上勝町から、グローバリゼーションによる大量消費に慣らされ、持続可能性を失いつつある日本社会への警鐘(メッセージ)である。私たち日本人が、過去を省みるとともに、現在直面する環境問題や将来の高齢化社会に備えて、いかに生きるべきかを考えさせられる一冊である。 |