松永桂子 著

2012/10

 
『創造的地域社会――中国山地に学ぶ超高齢社会の自立』
新評論(定価3,000円+税、2012.6)

 本書には、著者が5年間で250名を超す人びとと対話を重ねた「同時代の証言」が収められていると同時に、人口減少と高齢化が最も顕著に進行している地域の研究から得られた「未来への提言」がまとめられている。
  1966年に国の経済審議会がまとめた『20年後の地域経済ビジョン』で「過疎」の実態について報告がなされたが、この際に過疎のモデルとなったのが島根県匹見町(現:益田市)とされている。匹見町の人口は1960年から2010年までの50年間で8割以上減少し、65歳以上の人口構成比を示す高齢化率は2005年に53.5%と5割を超えた。しかし、中国山地の現場では、深刻な過疎などの条件不利を果敢に乗り越え、想像を超えるような独創的な取り組みが重ねられつつある。このような「地域の自立」を促す要素として、本書では、内発的発展を導く「創造性」と、人びとの生活基盤としての「コミュニティ」に注目し、「創造的地域社会」という概念を提示している。
  独創的な取り組みが、なぜ中国山地の現場で行われているのか。その答えは、コミュニティにある。中国山地のような「農村型コミュニティ」においては、「生産のコミュニティ」と「生活のコミュニティ」が一致しており、集落ごとに住民同士が「顔の見える関係」を築いている。人口規模が小さな町村ほど、産業振興、地域振興、農業対策が一体化され、地域独自の手法と発想で取り組まれているからこそ、独創的な取り組みが可能になっている。とりわけ条件不利地域において、新たな活力を生み出している最大の立役者は農村女性たちである。彼女らが生きがいや働きがいをもって活動に参加することで、かつてのように「地元の名士」が地域産業を主導するのではなく、「普通の人びと」が地域産業を主導する存在になっている。

 

  東日本大震災以降に大きな課題となっていることの一つに、コミュニティの再生が存在する。本書が示す「小さな自治」や「小さな産業」は、被災地の復興の指針としても重要なだけでなく、被災地以外でもコミュニティの再生が注目される中で貴重な提言である。また、人口減少と高齢化は日本全国に共通する課題であり、東京や大阪などの大都市においても徐々に顕在化しつつある。本書が対象とした中国山地は、かつては都市化から取り残された地域として扱われてきたが、実は超高齢社会に対応した先進的な取り組みをしてきた地域なのである。60歳以上の人びとが現役で働くことが一般的になりつつある農山村の現場で得られた知見は、今後は都市においても活用されるであろう。
  本書あとがきによれば、著者は2011年4月から勤務先を大阪に移し、東日本大震災の被災地にも何度も訪問している。本書に示された高い問題意識と、鋭い分析視角を持つ著者が、大都市大阪や東日本大震災の被災地の現場をいかに見据え、どのように分析するか、今後の業績にも期待したい。

(横浜市立大学准教授・山藤竜太郎)

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