2014年8月号
通巻599号

特集 ランク付け・指標化される都市と地域

 一度でも地域の総合指標・ランキングづくりに直接関わったことのある人ならば、地域の点数や順位は、そのつけ方次第で結果がかなり大きく変わってしまうということを知っている。人々が都市や地域に求めるものは本来多様であるし、また各自のライフステージとともに、また世の中のトレンドとともに大きく変化もする。教育の充実度、交通の利便性、緑の多さ…、それぞれにどの程度の係数をかけて点数にし順位づけするか、人によって、また時によって大きく異なると考えるのが自然だろう。

もし、自分が住んでいるまちがとても悪い評価を受けたら、「所詮、誰かが適当に作った、あてにならない指標だ」と誰しもそう思いたいだろう。
かくいう私も、最近ある指標で、自身の住む豊島区が東京都区部で唯一「消滅危機にある」という結果をみて、そう思いたくなってしまった。しかし、それでもやはり気になってしまうのが、我がまちの点数・順位付けというものだ。「隣の町には負けたくない」「勝ち組になりたい」「取り残されたくない」……といった気持ちは誰にでもある。不動産を持っている人たちにとっては、より切実な問題だろう。ランキングや指標によってまちの評価が下がれば、自分の持っている土地や建物の値打ちも大きく下がってしまうかもしれない。それだけに、ランキングや指標を広くメディアに公表しようとする者には、強い責任感が求められる。

2014 年8 月号「ランク付け・指標化される都市と地域」特集にあたって
『地域開発』編集委員 瀬田 史彦
自治体も、ランキングや指標に対して常に敏感だ。市の職員の方々と話しても、こうした話が頻繁に出てくるようになった。いい点数をもらっているところは、こちらが尋ねなくても「私どもの市は不交付団体(国から交付税をもらっていない裕福な自治体)です」などと、さらっと…だが、 誇らしげに言う。悪い点数をつけられてしまったところは「いや、今年の『○○ランキング』でワースト10 に入ってしまっているんですよね」と自嘲的に話す。市長が職員に「(ランキングの)順位を上げろ!」とハッパをかけている自治体があるかもしれない。

今後、地方分権が進むと、これまで全国一律だった政策がどんどん多様化し、地域間の格差が大きくなるだろう。また、その差を補てんするような国や都道府県の関与は、弱くなっていくことが予想される。結果、地域の指標には、否が応でも差が生じ、その順位にも開きが出てくる。隣接する自治体でも、どこに住むかで幸せの度合いに差が出るような状況になってくる可能性が高い。
地域づくりに携わる人たちには、ランキングや指標の信ぴょう性を確認することが必要になるともに、地域にとって重要と思われるランキングや指標の動向を注視し、場合によっては順位を上げるための具体的な政策を講じなければならない時代になりそうだ。

特集にあたって
瀬田史彦
地域を指標化する意義と課題
山内直人 大阪大学大学院国際公共政策研究科教授
自治体の「幸せ指標」の現状と今後への期待
枝廣淳子
新津尚子
幸せ経済社会研究所所長
幸せ経済社会研究所研究員・武蔵野大学非常勤講師
熊本県民の幸福量を測る総合指標「県民総幸福量(AKH)」の算出とその活用
村上友彦 熊本県企画振興部企画課 主幹
学都岡山の実現可能性を探る─全国「学都」ランキングに基づく実現可能性の検証
千田俊樹 岡山大学地域総合研究センター教授
地方公共団体の財政の健全化に関する法律の効果と今後の課題
岡本理恵 総務省自治財政局財務調査課財政健全化係長
地方債市場における格付けの意義と自治体経営のありかた
稲生信男 東洋大学国際地域学部教授
社会格差を視る小地域のセンサス指標:地理的剥奪指標とジオデモグラフィクス
中谷友樹
矢野桂司
立命館大学文学部教授
立命館大学文学部教授
「世界の都市総合力ランキング」からみた東京
廣田千晴
浜田祐子
一般財団法人 森記念財団 都市戦略研究所
一般財団法人 森記念財団 都市戦略研究所
ブータンのGNHの思考
上田晶子 大阪大学グローバルコラボレーションセンター特任准教授
都市のサステイナブル度に関する日経評価指標(「日経サステイナブル都市評価指標」)
市川嘉一 日本経済新聞社
「住みよさランキング」高まる自治体での注目度
加藤千明 東洋経済新報社「都市データパック」編集長
高齢者人口、生産年齢人口などの推移から2040年の自治体財政をシミュレーション
竹田孝洋 株式会社ダイヤモンド社 週刊ダイヤモンド編集部 副編集長
◎<連載―第2回> 現場で活躍できる自治体職員の条件 ―出る杭を伸ばすには
自治体職員は、すべからく地域活動をすべし
浦野 秀一
◎<特別連載> 人口減少社会に求められる自治体の計画行政と計画技術 第6回
地域を持続可能にする計画技術(マネジメント)のあり方を探る
増田  勝・井上 正良

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