2014年9月号
通巻600号

特集 設立50周年記念:地域開発の回顧と展望

昭和39年に日本地域開発センターが正式に設立された。東京オリンピックの年であった。当時の日本は製造業を質・量ともに世界の先進国と肩を並べる事に必死であっ た。財界は国の支援のもとに製造業の戦略拠点を全国展開する事に意を注いでいた。

このセンターはその財界の頭脳センターとして設立されたものである。学会も積極的であった。経済同友会代表の木川田一隆氏、日本開発銀行の小林中氏及び東大総長であった茅誠司氏がセンター設立の中心であった。センターは産学共同のシンクタンクとしては日本で初めての組織であった。設立2年後にフォード財団はセンターに調査研究費55万ドルを寄付した。フォード財団はすでに、ギリシャのドキシアデス研究所と、MITとハーバードが設立した都市研究所に同額を寄付していた。したがって、フォード財団は世界の三大地域開発拠点のひとつとして当センターを認定したわけであった。センター設立の昭和39年からの25年間の昭和の年代、当センターは名実ともに地域開発研究の日本の中心として活躍をした。しかし、平成の年代に入ると状況は一変する。地域開発はもはや大企業の工場進出のみで語られなくなった。環境、情報といった新しい産業領域の出現や、地域の企業や住民の自主的な地域生産活動が活発になってきた。製造業の全国展開もほぼ完了し、財界から研究支援も次第に軽くなった。平成に入って、当センターはその研究領域をこれまでの重厚長大型から、地域の企業、住民の新しい活動を発見し支持する軽やかでスピード感のある研究に視点を移すようになった。そのセンターの活動の鍵は、昭和の年代に培ってきた、研究者と実践者、そして東京と地域をつなぐ人と人とのネットワークであった。そしてその人と人とのネットワークは、当センターを支える第二世代の研究者によって更新されていった。この新しいネットワークによって、昭和の時代には見失いがちであった数多くの地域が創造した、知恵と実践結果を全国に紹介できるようになった。いわば、当センターによる身の丈にあった地域開発活動の全国展開であった。

この50周年を機に当センターの活動も第三世代に引き継がれてゆくであろう。率直に言って、企業からのこれまでの恒常的な支援は期待できないと思っている。限定的な資金の枠組みで新しい研究と実践の枠組みを作ることは大変である。しかしこれ迄にない視点で、地域開発研究を進めてゆけば、研究支援の資金も集めることが可 能である。その分野が具体的に何であるかはまだわからない。しかし、第一世代の私が第三世代の研究者に頼みたい課題があるとすれば、“これからの国家間競争を生き抜いてゆける、全国土と全国民をあげた新しい産業像と生活像を地域の特性に応じて組立ててゆく”ことではないかと思う。是非これから当センターに参加して頂ける第三世代の研究者や実践的な市民そして企業の人達に、今後のセンターの再生に協力して頂きたいと願っている。

一般財団法人日本地域開発センター理事長
伊 藤  滋
(早稲田大学特命教授)

■巻頭言挨拶
伊藤 滋
■50周年記念行事について
事務局
たたかう東京   東京計画2030+
伊藤 滋  一般財団法人日本地域開発センター理事長
■地域開発の回顧と展望
地域開発の回顧と展望
大西 隆 元編集長・理事長、豊橋技術科学大学長、日本学術会議会長、東京大学名誉教授
東京臨海開発構想の夢と現実…2020年オリンピックへの構えに関連して
蓑原 敬 都市プランナー
構想(ヴィジョン)と計画・事業
黒川 洸 一般財団法人計量計画研究所代表理事、筑波大学・東京工業大学名誉教授
もうひとつの「開発」
西村 幸夫 東京大学先端科学技術研究センター所長・教授
地域開発のレガシー
山ア 朗 中央大学経済学部教授
遅れてきた者の地域開発論
荒井 良雄 東京大学教授
国土・地域政策の回顧と課題
今野 修平 元大阪産業大学教授
東京一極集中の是正と地方創生―首都圏整備、首都移転論から州体制へ
山東 良文 元国土庁大都市圏整備局長
これからの自立地域圏づくりと2つの戦略テーマ
小澤 一郎 公益財団法人都市づくりパブリックデザインセンター理事長
エネルギー都市計画の提案
片倉 百樹 日本地域開発センター評議員、株式会社ジェイテム代表取締役
設立50周年、進取の精神で、今後も「地域づくり」の先導役を
清原 慶子 三鷹市長
回顧:北海道開発
大川 信行 東日本国際大学名誉教授
「日本列島の将来像」に学んだ「中部圏の将来像」
伊藤 達雄 三重大学名誉教授、愛知工業大学客員教授
20世紀都市資産の運用
渡邉 定夫 東京大学名誉教授
地域づくりと交通政策:クルマの進化とその新世界?
太田 勝敏 東京大学名誉教授、公益財団法人豊田都市交通研究所所長
社会的共通資本としての緑地
石川 幹子 中央大学理工学部教授・東京大学名誉教授
地域開発:過去と未来
清成 忠男 事業構想大学院大学学長
都市・地域開発プロジェクトの回顧
光多 長温 公益財団法人都市化研究公室理事長
情報通信技術の発展と日本地域開発センター
斎藤 忠夫 東京大学名誉教授
14年にわたる編集委員を回顧する
関 満博 明星大学教授、一橋大学名誉教授
パラダイムの転換
矢作 弘 日本地域開発センター理事、龍谷大学教授
地域開発センターの回顧
伊東 光晴 京都大学名誉教授、福井県立大学名誉教授
日本地域開発センターと私
佐藤 竺 成蹊大学名誉教授
94歳老人の回想
水田 洋 名古屋大学名誉教授
■これからの地域開発
人口減少社会における地域開発
瀬田 史彦 東京大学准教授、「地域開発」編集委員
レジリエンスを考える−これからの復興・防災・減災−
加藤 孝明 東京大学生産研究所准教授
観光による地域振興
守屋 邦彦 公益財団法人日本交通公社主任研究員
中心市街地活性化政策の失敗と求められる5つの転換
木下 斉 一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス
地域振興と環境・エネルギー
竹ケ原 啓介 鞄本政策投資銀行 環境・CSR部長
成熟社会の地域産業と社会経済
松永 桂子 大阪市立大学大学院創造都市研究科准教授、『地域開発』編集委員
中山間地域問題と私―共感が生み出す次の展開に向けて
図司 直也 法政大学現代福祉学部准教授
■センタープロジェクト
センタープロジェクトの概要
日本地域開発センター事務局
「地域社会研究会」の経緯と意味
岡崎 昌之 法政大学現代福祉学部教授
東京湾奥委員会がもたらしたもの
関口 太一 (株)都市計画設計研究所 代表取締役
ニュー・アーバンビレッジ構想〜農村による都市の共生と都市による農村再生に向けて〜
土肥 英生 NPO法人日本都市計画家協会理事・事務局長
アドバイザー事業について
事務局
国土庁地方振興アドバイザー制度―アドバイザー報告@
後藤 春彦 早稲田大学理工学術院教授
地域振興アドバイザー事業を振り返って―アドバイザー報告A
宮口 とし廸 早稲田大学教育・総合科学学術院教授
『地域開発』誌の発行と表紙デザイン
日本地域開発センター事務局
大西 達也 『地域開発』編集長
表紙の情報デザインの変遷とアトラスの概念
森田 喬 法政大学教授
『地域開発』誌・特集一覧、「地域開発研究懇談会」一覧

トップページへ戻る