2014年11月号
通巻602号

特集 クリエイティビティを追求する地場産業・伝統工芸

地域の自然資源と名匠の技が結びついた地場産業。陶磁器、漆器、家具、工芸品など、わが国には地域の風土を受け継いできた産品が数多くある。その大部分は江戸時代に各地の藩の要請によって生まれ、地域の個性を映し出しながら産業として発展してきた。それから400年来、時代とともに産地は成長と衰退を経験、市場経済化の過程で姿を消した工芸品も少なくなく、残っている産地も縮小の歩みを長らく続けている。
しかし、このところ地場産業・伝統工芸に新たな兆しがみえてきた。存続の危機に直面しながらも復活を遂げた今治のタオルが有名である。だが、個々の産地もさることながら地場産業全体を取り巻く環境自体に変化が表れているようだ。ライフスタイルの見直し、地域発のデザイン志向などから「手仕事」を再評価する動きが高まっている。
外部のデザイナーやバイヤーなど作り手以外の人びとが存在感を高めている。あるいは、異なる世界から地域に飛び込む若い職人もいれば、中小企業の協業によって新たな作品を生みだす産地もある。地場産業はますますクリエイティビティ豊かな活動に向かっているようにみえる。それは昨今のローカル志向につうじるようでもある。
現在では欧米に向けて積極的に発信され、日本の伝統工芸品はアニメや和食などと共に「クールジャパン」の一翼を担っている。しかし、世界への発信は今に始まったことではない。よく知られるように、もともとヨーロッパの陶磁器生産の歴史は浅く、日本や中国など東洋の陶磁器を輸入して模倣するところから始まっており、独自の製品を生産するようになったのはこの300年ほどの間である。
西洋と東アジアの交易が盛んであった大航海時代には、中国や日本の磁器や漆工芸、絹織物は貴重な貿易品であった。オランダ・東インド会社をつうじて、日本からは有田焼・唐津焼に代表される伊万里焼が大量に輸出され、ヨーロッパ各地で模倣品が製造され、技術面でも大きな影響を及ぼした。例えば、ドイツ・マイセンの初期も「柿右衛門写し」が多く製造されており、配色や構図などに大きな影響を与えた。
日本のモノづくりの原点ともいえる地場産業。多方面に広がりをみせてきたが、長きにわたって伝承されてきた美と技は、現在のデザイン志向、アート志向と結びつき、これまでとは異なる新たな形をなしつつある。
本特集では、バイヤー、職人、行政担当者、ソーシャルデザイナーなどの視点を取り混ぜつつ、現代の地場産業、そして「手仕事」が放つ魅力に焦点をあててみたい。地域の産業と暮らしが結び付いた審美的調和、民主的な文化景観を支えるコミュニティから学ぶべきことは大きい。

「地域開発」編集委員
松永 桂子
(大阪市立大学大学院准教授)

特集にあたって
松永 桂子
一人問屋の挑戦―作り手、バイヤー、デザイナーをつなぐ―
日野 明子 スタジオ木瓜
家具職人の挑戦―仙台家具への新たな息吹―
三浦 拓也 十一月八製作所
放射能災害により故郷を失った伝統工芸品産地──福島県浪江町の「大堀相馬焼」の行方
関 満博 明星大学経済学部教授
伝統工芸と創造都市―金沢と京都からの創造―
佐々木 雅幸 同志社大学教授
「資本主義の新たな精神」と手仕事の復権
立見 淳哉 大阪市立大学創造都市研究科准教授
豊岡鞄とカバンストリート
今井 良広 兵庫県産業労働部政策労働局産業政策課 企画調整参事
石見焼・石州瓦とソーシャルデザイン
尾野 寛明 有限会社エコカレッジ代表取締役、NPO法人てごねっと石見・副理事長
波佐見焼 日用食器の伝統と新しさ
松永 桂子 大阪市立大学大学院創造都市研究科准教授
墨田区の伝統工芸と産業振興の試み〜3M運動・スカイツリー・すみだモダン〜
高野 祐次 墨田区企画経営室長
技術とデザインの融合で世界市場を目指す東大阪企業
辻 双九 東大阪市経済部モノづくり支援室
◎連載
古代日本の国土政策考(上)
川上 征雄 鞄s市未来総合研究所 特別研究理事
◎連載(第4回)現場で活躍できる自治体職員の条件−出る杭を伸ばすには
「総合計画」を読みこなせ
浦野 秀一 あしコミュニティ研究所所長
表3 Library
表4 こだわって生きる
伊東 将志 褐F野古道おわせ支配人

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