育ち盛りの子らと家族で、東京と南房総の往復生活を8年続けてきたママの奮闘記だ。きっかけは、田舎の実家がないから、「田舎が欲しいなあ」というシンプルな思いだった。「ポルシェを買うお金があるなら、田舎を買おう」と動き出したが、土地探しに3年費やしてついに出会った土地は、農地だった。農家として認められなければ所有者にはなれない。買う側は「一世一代の買い物」の覚悟だが、売る側は、もっと重い決断をする。なにせ「先祖代々守ってきた土地を売る」のである。8,700坪もの土地を手に入れ、見渡す限りの里山風景の主になったと喜んだのも束の間、「ゴールデンウィークのころ、この家に到着すると、敷地全体が、草でモッサリ」「どうしよう、草が怖い」草刈りの週末になった。念願の小さな畑はイノシシにやられる。少し気を緩めると、たちまち自然が伸してくる。だから、田舎暮らしはやめられない…という境地に馬場さん家族は達している。すごい。
どこの市町村も定住人口増加が悲願だが、日本全体で人口が減少するのだから、どう考えても難しい。そこで、定住人口と交流人口の中間的な地域との関わり方が救世主として注目されるようになった。2005年に国交省が「二地域居住」についての報告書を公表した。人口減少下で無居住地域が拡大し国土が保全できなくなる事態を危惧して、リタイアした団塊世代をターゲットに「二地域居住」を促すものだ。これに先立って、総務省は、2001年から過疎地域対策として、マルチハビテーションを提唱、交流居住へと発展させている。
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国交省の推計によると、二地域居住者が2030年には1000万人を超えるともいわれる。複数地域に居住するスタイルは洋の東西を問わず古代に遡れる。いつの時代も、都会の喧噪を逃れて自然豊かな地におもむき、避暑・避寒の意味もあって別荘を持つのが上流階級のステイタスである。二地域居住にせよ交流居住にせよ、農作物を育て自ら収穫する喜びや気ままな趣味の実現など、田舎の魅力を一種の贅沢として発信し、田舎暮らしへ誘おうとしている。
それが、空き家や耕作放棄地対策にもなるという政策側の思惑だ。
だが、そう甘くはない。本当の魅力は違うところにある。「金曜の夜に移動し、明けて迎える土曜日の朝、ウグイスの鳴き声、青いような甘いような濃い匂いをはらんだ霞、あぁ……生き返る!」
刈っても刈っても生えてくる草、丹精込めた畑をイノシシに荒らされる無念を経験しているからこそ、味わえる瞬間なのである。田舎暮らしを、都会的思考で、高級車のような贅沢品の先をいく、次なる欲望ととらえては失敗する。
田舎を求める人だけでなく、二地域居住を推進する政策に携わっている人たちにも読んでいただきたい一冊である。
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