2015年1月号
通巻604号

特集 東京オリンピックまで5年、何ができるか?

1964年の東京五輪当時、日本が目指すべき目標は、多くの人々にとってはっきりしたものだったと想像する。戦争のダメージと戦後の混乱から予想以上に早く立ち直った後、国をさらに成長させ、ゆくゆくは先進国に肩を並べるという目標が示され、それは多くの日本人に共有されていたのだろう。そのための国家戦略が所得倍増政策や太平洋ベルト地帯構想であり、その手段となるインフラ整備が東海道新幹線や東名・名神高速道路であり、そして国際舞台への本格的なデビュー、アピールの場とされたのが東京五輪と1970年の大阪万博だっただろう。
中でもとりわけ東京五輪から日本人が得た経験は、私を含め当時まだ生を受けていない現在50歳未満の人々の間にも、他の何にも代えがたい「レガシー(遺産)」となって受け継がれていると思う。レガシーは、代々木競技場や新幹線のように見てわかるものだけではなく、当時の映像から垣間見える、みんなで頑張って国や都市を盛り上げようという日本人の気概、そして実際にそれを成し遂げた達成感や満足感のようなものも、少なからず受け継がれていると思う。
今度の東京五輪はそれから半世紀以上、56年の時を経た2020年。すでに日本は先進国入りを果たし、人々の価値観も多様化している。我々に、共通の目標は何かあるだろうか。五輪の招致活動自体も直前までそれほど盛り上がっていなかったではないだろうか。すでに多すぎるほどの建物やインフラがある時代に、遺産として残せるものがあるだろうか…。1964年当時と同じ感覚で五輪を見てみると、どうしても目標を見失いがちになってしまう。
だが本特集の寄稿を読んでみると、日本も、東京も、まだまだやることが多いと考えさせられる。高齢化や人口減少、観光振興、アジアをはじめ世界への情報発信といった現代の日本が取り組むべき新しい課題への対応だけでなく、これまでも行われてきた都市整備においても、よく検討してみると、取り組むべき課題がまだまだ多く残っているようである。
そして今回、東京五輪の招致活動をやや冷やかに見ていた日本の他の地域にも、東京五輪を活かすチャンスがある。キャンプ地誘致はその一つであり、2002年のサッカーW杯では、カメルーン代表のキャンプ地となった旧中津江村(現日田市)が大きく取り上げられた。五輪は様々な特色を持つ多様な競技が行われるから、それぞ れの地域が自分たちの地域の長所をうまく売り込めば、東京、関東圏以外にも少なくない波及効果が期待できる。さらに本特集の〆切前後には、IOC(国際オリンピック委員会)の幹部が一部競技の大阪での開催を認める発言をするなど、東京五輪開催の形態にはまだまだ流動的な要素も多そうだ。
2020年の五輪まであと5年。今、様々な立場にいる人が、どんなことを考えているのか、書いてもらった。

「地域開発」編集委員
瀬田 史彦
(東京大学准教授)

特集にあたって
瀬田 史彦  
2020年東京オリンピック・パラリンピックで実現したいこと
岸井 隆幸 日本大学理工学部土木工学科教授
東京オリンピック・パラリンピック開催を契機にした課題解決先進国への道程
涌井 史郎 東京都市大学環境学部教授、岐阜県立森林文化アカデミー学長
五輪レガシーとしての都市改造と臨海エリアの方向
平本 一雄 東京都市大学都市生活学部教授
新国立競技場問題は、市民、専門家、政治家をつなぐことができるのか?
松田 達 東京大学先端科学技術研究センター助教・建築家
オリンピックと観光
安島 博幸 立教大学観光学部教授
2020年オリンピック・パラリンピック大会後を見据えたまちづくり
佐野 克彦 東京都都市整備局技官
2020年東京オリンピック・パラリンピック開催に向けた江東区の取り組み
江東区政策経営部東京2020オリンピック・パラリンピック開催準備担当、江東区都市整備部まちづくり推進課
東京オリンピック等キャンプ地誘致に向けて
栃木県 総合政策部 総合政策課政策調整・地方分権担当
2020年東京五輪ボート競技事前キャンプ地誘致に向けて
安藤 昇 桑名市教育委員会スポーツ振興課課長
調査ルポ 外国人からみたTOKYO2020
秋山 太陽・瀬田 史彦 東京大学大学院工学系研究科
◎連載(第6回)現場で活躍できる自治体職員の条件−出る杭を伸ばすには
“広報力”を磨け
浦野 秀一 あしコミュニティ研究所所長
◎報告
市役所に入った自治体シンクタンク
檜槇 貢 佐世保市政策推進センター長・長崎国際大学客員教授
書評・Library
センター事業<地域政策見学会報告>
岩本 千樹 一般財団法人日本地域開発センター総括研究理事
センターからのご案内
表4 ここに生きる−海士町
“都会で磨かれた仕事力”と“田舎で育まれた人間力”の融合
阿部 裕志 渇の環代表取締役

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