2015年2月号
通巻605号

特集 リノベーションによるまちづくりの時代

住宅を例にとると日本の総住宅戸数は6,063万戸に達し、そのうち13.5%にあたる820万戸もが空き家である。しかも全体の70%以上が新耐震基準の適用され始めた1981年以降に建設された比較的新しい建物なのだ。生活の場としての地域のこれからを考える時、人口減少とともにこうした既存建築ストックの状況を前提にしなければならない。そこで重要になるのが、あり余るストックを楽しく豊かに利用できる空間資源として捉え直し、その利用方法に生活者の創意を導入し、まちの空間資源を継続的にリノベーションしていく活動である。
本特集では、ややくたびれかけた地域を豊かな生活の場に仕立て直す「リノベーションによるまちづくり」について、各地域での先進的な動きやその背景にある考え方を紹介する。
リノベーションの最前線を見続けてきた島原万丈さんは、その歴史を振り返るとともに、それがまちづくりの切り札になる理由について論じる。草分けの一人である馬場正尊さんは、東京R 不動産での経験に基づき、従来の都市計画の限界とそれに代わるものとしてのリノベーションの可能性について論じる。本誌編集委員でもある岡部明子さんは、土地や建物を経済的資源とみなすリノベーションのあり方に対して、経済的価値を介在しないもう一つの「道楽リノベ」なるものがあり得ることを指摘しその意義を論じる。やはり草分けの一人である大島芳彦さんは、今世紀の不動産業界の変化とリノベーションの関係を明らかにし、それによるまちづくりの必然性と地主の役割の重要性を論じる。高齢社会の住まいの専門家でもある園田眞理子さんは、まちにもライフサイクルがあり、持続のためには再投資が必要であることを指摘し、まちぐるみの協働的なリノベーションの可能性を論じる。
次に具体的な地域での取組みの紹介に移る。リノベーション先進地域として知られる北九州で実践的なスクールを運営し続けてきた徳田光弘さんは、それを核とするまちづくりへの多層型のアプローチの実際を明らかにする。1,700もの団地を保有するUR の高原功さんは、多摩平団地でのリノベーションを含む先進的な団地再生の取組みを紹介する。公共施設の再編に取組む広田直行さんは、自ら関わった習志野市の例を通して、リノベーションも含む公共施設再編の方法と課題を論じる。
最後の二つは業界と学界についてである。不動産業界に精通した矢部智仁さんは、リノベーションによるまちづくりにおいて不動産業が果たすべき役割について論じる。そして、松村はリノベーションまちづくりに関する学会の必要性とその意義について論じる。今回の執筆陣に他の賛同者の方々を加え、今年新たな学会を立ち上げる予定である。

松村 秀一
(東京大学教授)

特集にあたって
松村 秀一
リノベーションが各地で同時多発的に起こっているわけ−リノベーションの歴史を振り返りながら−
島原 万丈 潟lクストHOME'S 総研所長
東京R 不動産と新しい都市計画  建築×メディア×不動産により部分から生成されてゆく計画の可能性を探る
馬場 正尊 Open A 代表取締役
リノベ道楽だからできること
岡部 明子 千葉大学教授
プロパティマネジメントからエリアマネジメントへ−リノベーションの10 年−
大島 芳彦 (株)ブルースタジオ専務取締役
少子高齢社会のまちの持続と再生に向けて−協働的リノベーションが必要−
園田 眞理子 明治大学理工学部教授
北九州での多層型アプローチとその成果
徳田 光弘 九州工業大学准教授 リノベーションスクール代表
地域の核としての団地のポテンシャルを活かす−URの多摩平団地再生の取組み−
高原 功 独立行政法人都市再生機構東日本賃貸住宅本部ストック事業推進部長
公共建築ストックを核としたまち再編の可能性
広田 直行 日本大学教授
リノベーションによるまちづくりにおいて不動産業が果たすべき役割
矢部 智仁 ハイアス・アンド・カンパニー(株)ハイアス総研 主任研究員
地域間・産学間での情報共有を促進する場の形成へ−リノベーションまちづくり学会(仮称)の旗揚げ−
松村 秀一 東京大学教授 工学系研究科建築学専攻
◎施策紹介@
まちづくりのための公的不動産の活用について
大島 英司 国土交通省都市局都市計画課 課長補佐
◎施策紹介A
公共施設等の総合的な管理による老朽化対策等の推進について
村田 崇 総務省自治財政局財務調査課 理事官
◎寄稿
生業・仕事づくりによる地域再生・復興の方策
 ─第2回 販路開拓推進プロジェクト『さんりくチャレンジ』の提唱と課題─
高村 義晴 日本大学理工学部まちづくり工学科教授 他
◎セミナー案内
◎連載(第7 回)現場で活躍できる自治体職員の条件−出る杭を伸ばすには

理論武装と技術武装 ミーズの中からニーズを発見する
浦野 秀一 あしコミュニティ研究所所長
◎表4 生きる−四万十町
「いなか」人材育成へのチャレンジ
佐々倉 玲於 一般社団法人いなかパイプ 代表理事

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