2015年4・5月号
通巻607号

特集 都市の鍼灸療法

「都市の鍼灸療法」は、都市を人体のアナロジーでとらえて東洋医学的に治療しようとする試みである。都市を科学的に解明し西洋医学的に問題解決しようとする都市計画の主流に対して、オルタナティブな発想といえる。
俯瞰した都市の写真に、4本の鍼が刺さっている——ブラジルの元クリチバ市長J.レルネルの著書『UrbanAcupuncture』の表紙である。レルネルは、機智に富んだ方策の数々で、新興国途上国の都市交通やスラム対策で事態を動かすことに成功し注目されてきた。同書表紙で、鍼を突き立てられている都市はバルセロナだ。1980年代、多くの欧州都市が中心部疲弊地区をクリアランスして再開発したが、問題を郊外に飛び火させ根治できずに悩んでいた。政治的事情で再開発できず、出遅れたバルセロナは、疲弊地区に公共空間を戦略的に挿入する鍼治療に賭けた。改善の兆しが実感できた。
本特集では、これら「都市の鍼灸療法」のルーツを振り返りながら、今や地球規模でスラム対策として広がりを見せるに至った経緯を辿る。
面的に広がる都市に点を定めて介入するという意味に解釈すれば、「都市の鍼灸療法」は近代都市計画の枠組みのなかで、一般的に行なわれてきたことともいえる。いわゆる拠点開発では、都市のある点を刺激することで、周辺さらには都市全体への波及効果を期待してきた。
ただ、近年「都市の鍼灸療法」が急速に注目されるようになっているのは、近代では想定しておらず、従来型の手法では取り組みようがない課題群に斬り込むことができそうだからである。先進国都市の移民の凝集する疲弊地区や途上国で増殖するスラムは、経済競争のグローバル化や気候変動に根を下ろす問題である。
わが国の高齢化・人口減少もまた近代都市計画では射程に入っていなかった課題だ。大災害によって露わにされた問題に対して、本特集では被災地まちづくりを「都市の鍼灸
J.マックギルクは、『ラディカルシティ』(2014年)において、「モダニストたちが〈スラムというガンを切除する〉執刀医に喩えられるなら、現代の主流はさながら鍼灸師である。今日の都市計画家の道具はメスより鍼である。わずかな介入で、都市の神経系統を刺激し、組織体全体に触媒的効果をもたらす。」と述べている。
部分から全体へ、建築から都市を再編集するアプローチは、1960年代の近代批判時点ですでに提示されていた。現代芸術が、近代社会の枠組みに対して常に挑んできたことでもあるが、近代システムを改変するには至っていない。
鍼治療に劇的な効用を求めてはいけない。とはいえ、「都市の鍼灸療法」の実践が、ひとつひとつはささやかでもグローバルにネットワークすれば、今度こそ主流の都市計画の枠組みを変えることにつながらないとは言い切れない。

「地域開発」編集委員
東京大学教授 岡部 明子

特集にあたって
岡部 明子 「地域開発」編集委員・東京大学教授
都市福岡のツボ
出口  敦 東京大学大学院新領域創成科学研究科教授
空き地・空き家をツボにしたまちづくり
饗庭  伸 首都大学東京都市環境科学研究科准教授
バルセロナ:都市を多孔質化する
阿部 大輔 龍谷大学政策学部准教授
クリチバ:レルネル市長の都市戦略
服部 圭郎 明治学院大学経済学部教授
スラムの居住環境改善 ̶アジア・アフリカ急成長都市で続く挑戦̶
志摩 憲寿 東洋大学国際地域学部准教授
ラディカル・アーバニズムの系譜
雨宮 知彦 建築家/ユニティデザイン一級建築士事務所
被災地の「鍼治療」による再生
姥浦 道生 東北大学大学院准教授
まちづくりの五カ条再論「都市計画」のオルタナティブを求めて
福川 裕一 千葉大学名誉教授
ビルディング・アーバニズム−施設再編から考える急激な社会変動への対応とコミュニティの再編̶
藤村 龍至 建築家・東洋大学理工学部講師
鍼灸治療としてのアートプロジェクト : 灰塚アースワークプロジェクト
山吹 善彦 元灰塚アースワークプロジェクト事務局
都市とその「経絡」
日埜 直彦 日埜建築設計事務所
◎寄稿
生業・暮らしづくりによる地域創生・復興の方策
第2回 販路開拓推進プロジェクト『さんりくチャレンジ』の提唱と課題
高村 義晴 日本大学工学部まちづくり工学科教授
◎連載(第7 回)
現場で活躍できる自治体職員の条件−出る杭を伸ばすためには
理論武装と技術武装 ミーズの中からニーズを発見する
浦野 秀一 あしコミュニティ研究所所長
◎新連載(第1 回)
−モーターシティ、トリノの最新事情報告−
具現化してきたポストフォーディズムの都市風景
矢作 弘 龍谷大学教授
◎寄稿(第1 回)
山間地集落の過疎地・福祉有償運送の取組み
−島根県美郷町のNPO が住民をワゴンで運ぶ(別府安心ネット)
関  満博 明星大学教授
◎<書評>
経済協力開発機構編著
『創造的地域づくりと文化−経済成長と社会的結束ための文化活動』
阿蘇 裕矢 静岡文化芸術大学名誉教授、東北公益文科大学特任教授
表4
生きる−周防大島町
大野 圭司 ジブンノオト代表

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