2015年12・1月号
通巻611号

2016年 新年号 特集
新時代の津軽海峡交流圏の構築に向けて〜新幹線がつなぐ地域〜

2016年3月26日、青函トンネル開通(1988年)から約30年の時を経て、新幹線が初めて津軽海峡を渡る。北海道新幹線で道南地域と繋がる青森県では、2002年12月の八戸駅、2010年12月の新青森駅に続いて、今回の奥津軽いまべつ駅が3度目の開業となる。青森県内では、これまでも新幹線開業を契機に各市町村や産学官民がそれぞれの立場で特産品販売や観光客誘致での地域間競争に切磋琢磨してきた。
今般の北海道新幹線開業にあたっては、既存の自治体の枠組みを越えた広域連携・協働の動きもみられるようになっている。その代表的な活動が、津軽海峡を挟んだ青森県全域と道南地域に跨る人口180万人を超えるエリア(=津軽海峡交流圏)を対象に青森県が推進する「青森県津軽海峡交流圏ラムダ作戦会議」である。同会議では構成メンバーである民間委員の自由な発想に基づいたさまざまな提案の実現を通じて、圏域が有する地域資源や人財の存在を圏域住民のみならず首都圏等他地域に対しても発信し続けている。
青森県と道南地域の交流の歴史は縄文時代にも遡るなど、長年にわたる人の移動を通じて歴史的・文化的に強い結び付きがみられ、近年においても進学・就職から通院に至るまで形を変えて継承されてきている。北海道新幹線開業はこれらの人的な交流活動を、両地域の組織や企業間での連携を通じた経済活動に強化・発展していく絶好のチャンスとなるであろう。 なお、北海道新幹線に関しては、新青森駅以北の延伸区間が県庁所在地など人口集積地を経由しておらず、しかも終着駅となる新函館北斗駅が函館市内ではなく隣接する北斗市郊外に立地するといった点から、その利用者数や利便性等について懸念されている。特に、新幹線利用者の多くが目指すであろう国内有数の観光地の函館市内まではアクセス鉄道や路線バス等への乗り継ぎが必須となることから、二次交通に関して質と量の両面での整備が望まれる。
他方で、北海道新幹線は既存交通インフラの飛行機(青森・三沢・函館の3空港)や津軽海峡フェリー等との組み合わせによって、圏域内でのさまざまな周遊ルート設定も可能となる。さらには、新幹線ルートから離れた地域であっても、新幹線利用で得られた時間をバラエティに富んだローカル線でゆったりと過ごすような着地型観光商品の造成により、新たな市場開拓を目論む企業も出始めている。
本稿では、「北海道新幹線を津軽海峡で繋がった津軽海峡交流圏の圏民として迎えたいと活動している江差町歴まち商店街(同組合監事 室谷元男氏)」や「死ぬまで泳ぎ続けるマグロのように、次から次へとチャレンジし続けて止まない津軽海峡マグロ女子会(まちおこしゲリラあおぞら組 島康子氏)」のように、圏域内の多様な主体によるさまざまな取り組みの紹介を通じて、新たな時代の広域連携の可能性について考えてみたい。

『地域開発』編集委員長
一般財団法人日本経済研究所調査局長
大西 達也

特集にあたって
大西 達也 「地域開発」編集長・一般財団法人日本経済研究所
「津軽海峡交流圏」の形成に向けて〜青森県津軽海峡交流圏ラムダ作戦会議〜
小山内 豊彦 青森県企画政策部長
大学間連携による津軽海峡交流圏での学びの魅力向上にむけて
森 樹男 弘前大学人文学部教授
北海道新幹線奥津軽いまべつ駅開業に向けた動き
小野 成治 今別町新幹線対策室参事
青森県における東北新幹線の開業効果−3度目の新幹線開業に向けて−
竹内 紀人 一般財団法人青森地域社会研究所調査研究部長
津軽海峡マグロ女子会の挑戦 !
島 康子 まちおこしゲリラあおぞら組
“青森ならでは”を商品化する!
町田 直子 株式会社ACプロモート代表取締役
北海道における新幹線開業に向けた取組
石井 吉春 北海道大学公共政策大学院教授
新幹線開業による経済効果
本間 研一 北海道総合政策部交通政策局新幹線推進室長
新幹線開業による道南地域の活性化
石井 吉春 北海道大学公共政策大学院教授
新幹線開業に向けた函館での対応
永澤 大樹 函館商工会議所新幹線函館開業対策室長 兼 地域振興課長
北海道における新幹線開業における経済効果
鈴木 健太 北洋銀行地域産業支援部青函産業振興室室長
北海道新幹線開業に向けた新たな地域プロモーション戦略〜函館・五稜郭からの誓い〜
中野 晋 五稜郭タワー株式会社専務取締役
再現「江差の五月は江戸にもない!」〜津軽海峡圏民の連携による人づくり・町づくり〜
室谷 元男 江差町歴まち商店街協同組合監事
新幹線ほくとう連携研究会で見る地域連携
横川 憲人 一般財団法人北海道東北地域経済総合研究所専務理事
◎連載(第5回)縮小都市トリノ モーターシティの凋落から再生へ
産業転換による工場転用と地域の活性化
和田 夏子 東京大学新領域創成科学研究科客員共同研究員
書評『地域創生への挑戦 住み続ける地域づくりの処方箋』
松本 克夫 ジャーナリスト
◎連載(第13回)現場で活躍できる自治体職員とは?出る杭を伸ばすには
“活性化人口”で活性化につなげる
浦野 秀一 あしコミュニティ研究所代表
◎センター事業
第488回地域開発研究懇談会「CBD(中心業務市街地)のレジリエンスの向上のために」を開催
研究グループ  
ベトナム国計画投資省の視察団の受入れ実施
研究グループ  
◎<書評>長瀬光市、縮小都市研究会 著
地域創生への挑戦
住み続ける地域づくりの処方箋  ★内容のページへ
松本克夫 ジャーナリスト
裏表紙 生きる−対馬市
学びの力を地域に 地域の力を学びに 対馬市の域学連携事業の取り組み
川口 幹子 一般社団法人MIT専務理事

トップページへ戻る