2016年2・3月号
通巻612号

2・3号特集
東日本大震災から5年 復興現場の最前線
-新たな可能性を拓くソーシャルビジネス・人材の力-

東日本大震災から5年。被災地の課題は時間の経過と共に細分化・多様化している。津波被災地と原発被災地では課題の方向性も異なり、さらには原発被災地の自治体も区域によって置かれている状況は大きく違ったものになりつつある。
福島ではいまだ10万人の人びとが避難を余儀なくされている一方で、帰還に向けて準備を進める地域も出てきている。しかし、いったん土地を離れた人びとは容易には戻ってこられず、帰還して生活再建しようにも、商業機能はほとんど戻らず、優良農地だったところには除染廃棄物が堆く積まれているため農業再開も困難であり、大きな制約のなかにある。商店や飲食店は元の場所での再開を願っても、客が来なければ商売が成り立たず、帰還へのハードルはより高い。
どこから手をつけるべきか、「卵が先か、鶏が先か」、現場の自治体からは途方に暮れる声も漏れ聞こえる。この先、除染や廃棄物の中間貯蔵に30年、廃炉作業には30〜40年かかるとされている。道のりは遠く長い。
これまで5年の復興事業は、津波被災地を中心とした復興まちづくり・インフラ整備であった。がれき撤去から公共インフラの復旧、仮設住宅の設置から住宅の高台移転、さらに区画整理やかさ上げ工事がおこなわれ、現在も防潮堤や復興道路の建設などが進められている。目に見えてまちの再建は進んでいるが、膨大な復興予算が短期間に投じられたことから、行き過ぎた計画への批判やゆがみを招いている地域もある。
他方で今後は、ハードからソフトへ、生活支援や産業支援の領域のウェイトが高まっていく。住民に寄り添ったサポートが求められるが、公的支援だけでなく、コミュニティレベルの取り組みやソーシャルビジネスの参入など生活支援領域の事業化に期待が高まる。被災地で立ち上がったソーシャルビジネスの多くは、震災後に駆け付けた人びとが現場の課題をくみ上げつつ、生業を生み出しながら事業化が進められてきた。地域資源を手仕事化してきた「つむぎや」の友廣裕一氏は、被災者に寄り添いながら、「与えられるより与える機会の大切さ」を説く。人は与えられてばかりではつらい。手仕事やなりわいを通して、社会とのつながりが感じられる。被災地では5年で100近い手仕事による商品が生み出されたという。
今回、寄稿いただいたソーシャルビジネスやNPOのリーダーたちは、「共感」「憧れ」「志」をもった人材の育成に力を注ぐ。
若い世代が夢とビジョンを描く土壌を耕す役割をも担っており、被災地を学びの場と捉える視点が共通している。以下では、被災地に深く関わってきた研究者と実践者を中心に、復興政策、まちづくり、産業、コミュニティ、ソーシャルビジネス等の視点から、5年間の復興の歩みと今後の方向性などについて論じていただいた。震災から5年の現状と課題を共有しつつ、次の復興ステージに向けて、さらなる可能性を拓く地道な活動と「人」に光を当てたい。

「地域開発」編集委員・大阪市立大学准教授
松永桂子

特集にあたって
松永 桂子 「地域開発」編集委員
東日本大震災から5年「復興の推進と課題」
大西 隆 豊橋技術科学大学長・日本学術会議会長
震災5年を経過した地域産業、中小企業──津波被災地と放射能被災地の現状と課題
関 満博 明星大学教授・一橋大学名誉教授
水産復興の現状と地域開発
濱田 武士 東京海洋大学准教授
「復興まちづくり」の視点から
石川 幹子 中央大学理工学部教授 元岩沼市震災復興会議議長
復興最前線で奮闘する人々 岩手県釜石市からの報告
新張 英明 元釜石市会計管理者
すこやかに生きるための仕事づくり
友廣 裕一 一般社団法人つむぎや代表
「憧れの連鎖」で福島の復興を担う人材を育成
半谷 栄寿 一般社団法人あすびと福島 代表理事
被災地から「共感力」ある人材を育成〜ビヨンドトゥモロー〜
坪内 南 一般社団法人教育支援グローバル基金 事務局長
福島の高校生による社会課題解決とそのサポート体制 「伴走者」コミュニティの視点から
加藤 裕介 一般社団法人Bridge for Fukushima
被災者支援員の活用と地域でのつながりづくり
池田 昌弘 NPO法人全国コミュニティライフサポートセンター 理事長
浜通りでの葡萄栽培・ワイン醸造プロジェクト
三澤 茂計 中央葡萄酒椛纒\取締役
◎連載(第6回)トリノ モーターシティの凋落から再生へ
トリノ・I3Pの事例に見るインキュベータの案件発掘力
尾野 寛明 有限会社エコカレッジ代表取締役 NPO法人てごねっと石見 副理事長
◎センター事業
第489回地域開発研究懇談会「東京の都市づくりの現在と今後
-東京オリンピック・パラリンピックの先を見据えた都市づくり」を開催
研究グループ  
◎連載(第14回)現場で活躍できる自治体職員とは-出る杭を伸ばすには
総合計画策定と地方議会
浦野 秀一 あしコミュニティ研究所所長
裏表紙 生きる−気仙沼市
“海辺で心豊かに暮らす”価値観を同じくする人とのつながりを大切にしたい
松田 憲 ペンシー株式会社 pensea&Co. 代表取締役

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