2016年4・5月号
通巻613号

特集 デザインが世界を変える、世界がデザインを変える

ソーシャルデザイン、コミュニティデザインという言葉をよく聞くようになった。物質世界の整備と豊かさの実感が直結していた時代には、デザイナーはデミウルゴス的神でよかった。しかし、近年、デザインには「社会の問題を解決する」ことが期待されるようになった。デザイナーたちはデザインすることの〈責任〉を強く意識せざるを得なくなった。建築界で権威あるプリツカー賞を本年受賞したのが、居住の貧困問題に建築デザインで解決の方向性を示したA.アラヴェナだった。 わが国では、建築家をはじめデザイナーの社会的意識は決して高くなかったが、2011年大震災が契機となって大きく変わった。デザイン正義を見出さずして、無邪気にものをつくりにくくなった。 本特集は、『世界を変えるデザイン』という本のタイトルから着想している。2007年ニューヨークで行なわれた展覧会“Design for the other 90%” が元である。グローバルに分極化する現代、デザインとは無縁の90%の人たちのための「デザインが世界を変える」というわけだ。若い建築家や研究者たちは今、途上国の現場に飛び込んでいっている。彼らは、スリランカ(大庭・前田)やケニア(井本)で、デザインが世界を変える手応えをどう実感しているのか。あるいは、ローカルな知のたくましさと出会って、デザインとは何かを逆に自問しているのではないか。「世界がデザインを変える」ではないか。
当然、建築デザイン教育も変わってきた。各大学の建築系の研究室では、隈研吾研究室にみるように海外ワークショップを積極的に行なっている。本特集に登場する小林博人研究室のように、コミュニティを支援する建築プロジェクトを海外で展開しているところも増えてきた。そこに、建築デザインの最前線があるのではないか。
そもそも、デザインの射程が変わってきた背景には、画一的な途上国支援が空回りしがちな現実がある(竹村)。気候風土と相まって、ローカルな材料や技術、文化の多様性に目が向けられるようになった(安藤、清家、岩元)。どのようなスタンスでデザインすることが、コミュニティに受け入れられ、コミュニティのためになり、そこに暮らす人たちのエンパワメントになり、地域の社会開発に資するのだろうか。もちろん一般解はない。
コミュニティを知ることからデザインが始まり、当事者たちの生業にまで立ち入ってやっと、真にコミュニティの利益となるものをデザインし、コミュニティと協働でデザインしそれを実際につくることができる。本特集では、このような取組みの草分けであるS.パレローニ氏に、20年以上の経験を経て見えてきたpublic interest design(公益デザイン、コミュニティの利益となるデザイン)概念について論じていただいた。
他方、デザインという言葉が世の中に溢れ、デザインの対象が無尽蔵に広がりかねないことへの批判がある。「デザインはどこまで社会問題を解決できるのか」、わが国コミュニティデザインの旗手、山崎亮氏に投げかけてみた。

『地域開発』編集委員・東京大学
岡部 明子

特集にあたって
岡部 明子 「地域開発」編集委員・東京大学教授
デザインの力、デザインの責任
隈 研吾 東京大学大学院建築学科 教授
デザインはどこまで社会問題を解決できるか
山崎 亮 studio-L 代表、東北芸術工科大学教授
真にコミュニティの利益となるデザインを目指して
セルジオ・パレローニ ポートランド州立大学 教授
先端の建築教育は、多様化・複合化されながら社会に向かう
中村 航 東京大学 隈研吾研究室 助教授
地元の能力開発に資する建築デザインとは? : 途上国での経験
小林 博人 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 教授
未来を開くきっかけとしての建築 : スリランカ旧紅茶農園長屋再生プ ロジェクト
大庭 徹
前田 昌弘
大庭徹建築計画
京都大学
建築が社会を変えるとき : ケニアのノンフォーマルスクール
井本 佐保里 東京大学大学院工学系研究科/復興デザイン研究体 助教授
農村の誇りを高める観光のあり方−ベトナムの村から−
安藤 勝洋 昭和女子大学国際文化研究所
「支援」がローカルな知恵や力を弱める?ネイティブアメリカンを事例に
竹村 由紀 東京大学大学院博士課程
多様な風土と建築における環境配慮
清家 剛 東京大学大学院新領域創成科学研究科 准教授授
現地調達のデザイン.アジアにおけるローカル材料の可能性
岩元 真明 建築家/九州大学 助教授
デザインの正義とは何か
福永 真弓 東京大学大学院新領域創成科学研究科 准教授
◎連載(第15回)現場で活躍できる自治体職員とは−出る杭を伸ばすには
分業と協業のはざまで
浦野 秀一 あしコミュニティ研究所所長
◎連載(第1回)「対流」による「小さな拠点」の活性化.地方都市の地域連携ビジネスモデル
エーゲ海に学ぶ小型船による海洋観光の新市場
藤村 望洋 一般社団法人日本海洋観光推進機構専務理事/ぼうさい朝市ネットワーク代表
◎センター事業<平成27年度地域政策講演会>
「住みたい東京」を開催(講師 伊藤滋)
研究グループ
◎<書評>尾畑留美子 著
学校蔵の特別授業
  ★内容のページへ
佐藤淳 (株)日本経済研究所上席研究主幹
◎<書評>牧野光朗 編著
円卓の地域主義
地方を消滅させない実践書!  ★内容のページへ
瀬田史彦 東京大学大学院准教授
総目次・Library
編 集 部  
裏表紙 生きる−沖縄市
消えていってはならないものがここには残っている
和田 瑞希 絵本作家sava

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