2016年6・7月号
通巻614号

特集 鉄道沿線で生まれる新たな価値

大都市圏の鉄道会社は、人口減少という言葉が一般的になるかなり前から、将来の乗降客数の減少が自社に与える影響に危機感を募らせ、新たな事業のあり方をいくつかの切り口から模索してきた。
その1つは、鉄道サービス自体の強化である。優等列車(快速、急行など)で同一区間を走る競争相手と差別化したり、逆に停車駅を増やして沿線での利便性を高めたりといったことは昔から行われている。近年に進んだのは、快適性・利便性を高めた車両・座席の増大だろう。特別料金をICカードやスマホで払って手軽に乗れる優等車両(グリーン車等)が増えた。また運行状況を含めた様々な情報提供を行う液晶モニターは、主要路線の車両ですでに当たり前になっている。 また、鉄道に乗ること自体を目的とする人たちへの積極的なアプローチも行われている。交通工学では、鉄道に乗ること自体を目的とした需要を「本源需要」と言い、到着地(以遠)での目的を果たすために鉄道を利用する派生需要と区別する。本源需要を担うのは、昔は主に鉄道マニアだったが、今は一般の観光客に拡大し、鉄道会社もそうしたニーズを積極的に取り込もうとしている。
しかし編者は、こうした取組みを肯定的に評価しつつも、沿線人口の減少局面に対する鉄道会社経営の抜本的な改善にはならないと考えている。こうした事業は、小さくなるパイの奪い合いであったり、ブームや外部要因による一時的なものであったりする。
沿線人口の縮小局面における鉄道会社にとってより重要なのは、沿線価値の向上と、そのための幅広い事業展開であると思われる。
沿線価値向上のモデルは、近代化・高度成長期に各私鉄で行われた沿線開発のビジネスモデルと、基本的な原理においてそれほど違わない。運輸事業を強化するとともに、沿線地域を開発し様々な施設やサービスを整備・供給して、沿線住民が鉄道沿線を中心とした生活を送り、その過程で落とされるお金が鉄道会社の懐に入る仕組みだ。
しかしこのモデルでは、近代化・高度成長期において利用客数のさらなる増大を期待できたのに対し、沿線人口の減少局面では、良くて横ばい、たいていの場合は下落に転じることが前提となる。利用客数の減少とともに、鉄道事業による運輸収入や営業利益が長期的にはほぼ確実に減少する中で、沿線でのより幅広い事業展開によってその穴を埋め、会社を維持・発展させ続ける必要に迫られる。今後、鉄道会社における鉄道事業の位置づけは、沿線価値向上のための他の事業とますます相対化されるだろう。
これまで「鉄道会社」と呼ばれ、鉄道事業を中心に稼いできた企業が、沿線での付加価値の高い事業でより多くの利益を生み出す「沿線まちづくり会社」になれるかどうかが、人口減少局面でも生き残れるかどうかの分かれ道ではないかと思われる。
以上のような問題意識から、本特集号は、鉄道会社の沿線価値向上の取組について、有識者による評論と実際に事業を行う鉄道会社による報告で構成した。

「地域開発」編集委員・東京大学大学院准教授
瀬田 史彦

特集にあたって
瀬田 史彦 「地域開発」編集委員・東京大学大学院准教授
乗客減少局面に臨む鉄道会社の新たなサービス
森 彰英 ノンフィクション作家
今日のまちづくりの課題解決における鉄道事業者への期待
中西 正彦 横浜市立大学国際総合科学部まちづくりコース准教授
人口減少局面における鉄道会社のサービス戦略
竹田 育広 横浜商科大学准教授
持続可能な東急沿線を目指して - 渋谷を中心としたビジネスエコシステムと都心近郊エリアの新しいライフスタイルの創出に向けて
白鳥 奈緒美 東京急行電鉄梶@都市創造本部開発事業部事業計画部 課長
京王沿線の生活サポートサービス「京王ほっとネットワーク」について
久保田 真紀 京王電鉄株式会社 総合企画本部 沿線価値創造部 生活サポートサービス担当 課長補佐
中央ラインモール構想の取組み
奈良 純 JR東日本八王子支社 事業部開発課
菜園事業「アグリス成城」にみる都市型グリーンライフの可能性
近藤 早映 東京大学大学院工学研究科
地域密着鉄道を目指す埼玉スタジアム線の挑戦
武藤 彰 埼玉高速鉄道株式会社 代表取締役常務
地域との協働による沿線価値向上の取組み
山本 寛 近鉄グループホールディングス株式会社 事業開発・グループ連携推進部長
兼 近鉄不動産株式会社企画室部長
阪急阪神沿線での沿線価値創造の展開について
九後 順子 阪急阪神ホールディングス株式会社 グループ経営企画室事業政策部
◎連載(第1回)木村俊昭の本業(work & lifework)のススメ−地域創生の方程式
木村 俊昭 東京農業大学教授、内閣官房シティマネージャー(自治体・特別参与)
◎連載(第2 回)「対流」による「小さな拠点」の活性化.地方都市の地域連携ビジネスモデル
ふるさと再生の対流ビジネスモデル『ふるさとリリーフ共同事業』
藤村 望洋 一般社団法人日本海洋観光推進機構専務理事、ぼうさい朝市ネットワーク代表
◎連載(第16 回)現場で活躍できる自治体職員とは−出る杭を伸ばすには
研修担当者こそ“出る杭”になれ
浦野 秀一 あしコミュニティ研究所所長
◎連載 アメリカの都市圏ガバナンス(1)
グローバル化に対峙するNew Regionalism
矢作 弘 龍谷大学教授
◎センター事業<第491 回地域開発研究懇談会>
「対流による拠点づくりと、地域活性化の新たなビジネスモデル」を開催
研究グループ
書評 『メイキング・ベター・プレイス−場所の質を問う』
延藤 安弘 NPO法人まちの縁側育み隊代表理事
裏表紙 生きる−三好市
四国のヘソから、ヒトとモノの往来促進を目指して
西崎 健人 一般社団法人ハンモサーフィン協会理事

トップページへ戻る