2016年10・11月号
通巻616号

特集 志民と志金で進める地方創生

「地方創生」の必要性が叫ばれて久しい。しかしながら、わが国を取り巻く環境が大きく変化するなかで、公的部門の財政制約やグローバリゼーションの進展等により、公共投資や企業誘致などの外発的要因に依存してきた地域は、ますます厳しい状況におかれている。今後、地域が自立していくうえで重要となるのは、歴史や生活文化に裏打ちされた地域の個性である「地域資源」と、これらを見出し、守り、次世代に伝えていく主体となる「地域人材」を育成していくことである。
 地方創生とは、資源と人材を組み合わせた地域の総合力としての「地域力」を高めることに他ならない。そのためには、「地域ビジョン」で地域の進むべき方向性を定めたうえで、地域経済に新たな付加価値を生み出す「地域振興プロジェクト」の創出が求められる。さらに、プロジェクトの実現には地域資源を有機的に結び付けて効率的に活用するための「経営技術」と、複数プロジェクト間での優先順位を決める「経営戦略」が不可欠となる。  人口減少と高齢化が進行している地域では、プロジェクトの担い手となる人材が不足しており、同時に地方財政の逼迫によりプロジェクト実現のために必要な資金不足も深刻となっている。このような状況下、就農体験からIoT等を活用した起業まで、さまざまな目的を持って自らの意思で地方に移住する若者たちや、「地域おこし協力隊(「地域開発2016.8・9 vol.615真庭ライフスタイル」参照)」などの活動を通じて、地域でのまちづくり活動等に共感し、住民と協働して地域の活性化に取り組む人たちのように、志を持った「志民」の存在に世間の注目が集まっている。
資金面においても、本稿で紹介している青森県弘前市が導入する、市民活動団体に個人市民税の1%相当額を限度とする補助金交付制度「1%システム(本文参照)」や、高級魚やブランド牛などの地域特産品に代表される豪華返礼品を巡って激しい地域間競争が話題となった「ふるさと納税」制度のような仕組みを利用して、域外から思いが込められた「志金」を調達する自治体も増えてきている。
 この他にも、「まちぐみ(青森県八戸市)」「村上町屋商人会(新潟県村上市)」「佐原を有名に志隊(千葉県香取市)」のように、明確な地域ビジョン・目標を定めたうえで共通の志を抱く同志を募ってともに活動している事例は、今後、地方創生に取り組もうとする他地域にも参考となるであろう。
 さらには、北九州市黒崎地区のように自らの生活する「まちへの想い(シビックプライド)」を3年間にわたる勉強会を経て「まちづくり戦略」にまで昇華させた事例は、住民主導の地方創生の好例として高い評価を得ている。  本稿では、地域を応援したいという明確な意思を持った「志民」や、特定の目的のために集められた「志金」に支えられて、多様な主体が参画するさまざまな地域振興プロジェクトの可能性について考えてみたい。

『地域開発』編集長
一般財団法人日本経済研究所
大西 達也

特集にあたって
大西 達也 「地域開発」編集長
市民の志を育む弘前市の市民活動助成制度「1%システム」
土井 良浩 弘前大学大学院准教授
多様な市民の思いがつながり、まちの誇りが伝播する 八戸の市民集団「まちぐみ」
柳沢 拓哉 八戸ポータルミュージアム主任コーディネーター
行政に頼らない村上市民によるまちづくりの挑戦
吉川 真嗣 村上町屋商人会会長
地方創生を担う仕組みとしての「平成の旦那衆」
〜佐原のまちづくりを未来につなげるために〜
椎名 喜予 認定特定非営利活動法人江戸優り佐原まちづくりフォーラム事務局長
住民・企業・行政の協働による環境改善活動を通じて「水の都・三島」の原風景を再生
渡辺 豊博 NPO法人グラウンドワーク三島専務理事
市民の思いを受け入れる「まちなか」の創造拠点 〜ゆりの木通り商店街〜
鈴木 基生 田町東部繁栄会会長
地域と子どもの未来を創造
〜ウォーキングによるグローカルな地域創生・活性化〜
松田  隆 NPO法人未来副理事長、鳥取県中部医師会会長
志民がつくるタウンドシップのまちづくり〜北九州市の副都心・黒崎の挑戦〜
池本 綾女 ソーシャルコネクター、タウンドシップスクール公長代行、副都心黒崎開発推進会議副幹事長
全国からの「志金」が「志民」を育てる佐世保市ふるさと納税
山田 哲也 佐世保市観光商工部ふるさと納税推進課課長
志民は重労働でおもてなし
沢畑 亨 水俣市久木野ふるさとセンター・愛林館館長
峰山地区コミュニティ協議会が実践している志民と志金の取組み
〜住民による手づくり自然観光公園柳山アグリランドを中心にして〜
コ田 勝章 峰山地区コミュニティ協議会会長
◎連載(第3回)木村俊昭の本業(work&lifework)のススメ−地域創生の方程式
まち・地域の全体最適化を推進しよう!
木村 俊昭 東京農業大学教授、内閣官房シティマネージャー(自治体・特別参与)
◎連載(第4回)「対流」による「小さな拠点」の活性化?地方都市の地域連携ビジネスモデル
美味しくて、顔の見える防災の地域間連携「ぼうさい朝市ネットワーク」
藤村 望洋 一般社団法人日本海洋観光推進機構専務理事、ぼうさい朝市ネットワーク代表
◎センター事業<第494回地域開発研究懇談会>
「超高齢人口減少社会のまちづくり-柏プロジェクトの経験から」を開催
研究グループ  
書評 『東京飛ばしの地方創生-事例で読み解くグローバル戦略』
木 直人 公益財団法人九州経済調査協会 理事長
裏表紙 生きる−水俣市
久木野の風習〜共助が生き続ける〜
前田  豊 小規模多機能施設 くぎのの里代表

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