2016年12・1月号
通巻617号

特集 集客空間の変容・現代の大人の遊び場

「経済の成熟化とともに、日本人の遊び場は様変わりした。ローカルイベントの盛り上がりやインバウンド観光の増加によって、観光地でなかった地域で繰り広げられる、新しい集客のかたち。地域アート、ジャズフェス、市民劇、バル・屋台めぐり、まちあるきにフットパス、建築散歩、少し前にはB級グルメ、最近ではアニメ・映画の聖地巡礼など、ソフト資産を生かした参加型・体験型の場に人が集まる。
日常の風景、生活空間に、非日常のイベントを介して、同じ時間に同じ場所で同じ経験をする。知らない者同士が織りなす空間。それは世相を映し出している。
ふりかえると、かつての集客空間は、経済成長、増える人口の熱気と一体の様相であった。昭和30年代の高度成長期、あちこちのレジャー空間で人びとが群れる様子を描いたすぐれたルポルタージュ、開高健『日本人の遊び場』(1963年)では次のようなところが取り上げられた。ボウリング場、食いだおれ(大阪)、パチンコ・ホール、マンモス・プール、軽井沢、阿波踊り、ナイター映画、ナイター釣堀、ヘルスセンター(船橋)など…。開高は昭和の巨大なレジャー施設に集まる心理を活写し、日本人の本質を浮かび上がらせた。人びとがなにかに追われるかのように、血相を変えて、娯楽を必死に追い求める姿がみごとに描かれている。
半世紀前と比べると、日常だけでなく、「非日常の空間」は大きく変容した。当時はまだ生活は十分には豊かとはいえず、ソトに非日常の豊かさを急き立てられるように求めていた。現在はウチにもかつての非日常の要素が入り込んで、家で買い物までできる時代になり、ソトでは経済的、物質的ではないべつの豊かさを求めて彷徨っているかのようである。それは、人との共有体験、あるいは他者を支えることによるボランタリー精神、貢献意識など、かつての貧しい時代には自然にあふれていたことに、わざわざお金と時間をかけて得ようとする行為といえるかもしれない。非日常の場で、わたしたちは、それらを一時的、擬似的に探っているのだろう。
いまや、こうした大人の新たな遊び場がちょっとした観光スポットと化してきた。各地で百花繚乱の感があるけれども、地域の素顔に触れる仕かけや魅力、持続性や浸透性は一様ではない。どこかうまくいっている取り組みには、集客によって生まれる新たな展開に関係者自身が気づきを得て、さらなる展開を生み出す力があるようにみえる。
そこで、今回の特集では、集客空間の変容・現代の大人の遊び場にスポットを当て、観光新時代の集客の現代的意義を国内外の事例から探ってみたい。執筆者の構成は、おもに、観察者(研究者)、仕かけ人、行政サイドで支える立場の3者であり、それぞれの非日常の演出に注目しながら眺めていただきたい。

「地域開発」編集委員
大阪市立大学大学院准教授
松永 桂子

特集にあたって
松永 桂子 「地域開発」編集委員
集客装置としての観光空間の変容
桑田 政美 神戸国際大学教授
スペイン・バスク自治州 サン・セバスチャンの「食」による観光
小畑 博正 鞄本旅行、北陸先端科学技術大学院大学知識科学系博士後期課程
英国発フットパスの日本への広がり
久保 由加里 大阪国際大学国際教養学部国際観光学科准教授
レトロな長屋の商店街再生と集客−新潟・沼垂の取り組み−
池田 千恵子 大阪市立大学大学院博士後期課程
郊外都市のバルイベント−伊丹が日本最大級のバルのまちになって−
村上 有紀子 伊丹都市開発株式会社参与
現代版組踊「肝高の阿麻和利」−中学高校生の舞台活動の魅力−
岡田 雅美 結い根プロジェクト主宰
徳島県三好市の廃校を活用した新たな集客空間の出現
吉田 達彦 徳島県政策創造部地方創生局地域振興課
クラウドファンディングが新たな集客につながる
中谷 雅子 大阪市立大学大学院創造都市研究科
人と情報が集まる「場」へ:写真の可能性を広げる写真ギャラリーの役割について考える
窪山 洋子 ブルームギャラリー代表
成熟社会における市民と取組む新しい公共空間のつくり方
−シビックプライドの醸成と豊かなパブリックライフの創造を目指して−
酒本 恭聖 大阪市立大学大学院創造都市研究科客員研究員/東京大学大学院工学系研究科非常勤講師/
川西市キセラ川西整備部長
観光都市・京都の新たな取組−魅力的な地域開発が新しい集客空間を生み出す−
白須 正 龍谷大学政策学部教授
◎連載 アメリカの都市圏ガバナンス(3)
アメリカの都市圏における広域調整・広域連携
青山 公三 龍谷大学教授
◎連載(第4回)木村俊昭の本業(work&lifework)のススメ−地域創生の方程式
全体最適思考による五感六育事業を推進中!
木村 俊昭 東京農業大学教授、内閣官房シティマネージャー(自治体・特別参与)
◎連載(第5回)「対流」による「小さな拠点」の活性化?地方都市の地域連携ビジネスモデル
捨てるものこそ地域資源「灰干しネットワーク」
藤村 望洋 一般社団法人日本海洋観光推進機構専務理事、ぼうさい朝市ネットワーク代表
◎連載(第18回)現場で活躍できる自治体職員の条件−出る杭を伸ばすには
改めて、「まちづくりの見方・考え方」を問う
浦野 秀一 あしコミュニティ研究所所長
◎センター事業<第495回地域開発研究懇談会>
「水力発電が日本を救う」を開催
研究グループ  
裏表紙 生きる−遠野市
藪内 慎也 三笠ファーム代表、地域おこし協力隊

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