2017年4・5月号
通巻619号

特集 東京の公空間・共空間

「東京は美しい」、「東京ってかっこいい」など、急に耳にするようになった。ほんの一時代前までは、人口規模は世界一でも、欧米都市のようにステキな街路や広場を持ち合わせていないことに常にコンプレックスを抱いていたのに。
本特集では、公共空間を、〈公 public〉と〈共 common〉の空間に意識的に分けてみた。感覚的には、〈公〉と〈私〉の中間にあるのが〈共〉ではないかと思うが、そう単純ではない。内田さんが齋藤純一著『公共性』を手がかりに考察しているように、特定のコミュニティでシェアされる〈共〉空間は、他者を排除するから〈公〉空間には近づけない。
少なくとも、〈公〉と〈共〉は、水と油のような緊張関係にある。本特集は、これを共通の了解として、一筋縄ではいかない都市東京を捕まえてみようという試みである。内田さんに加えて、北山さんは建築家の視点で、正面からこの問いかけに答えてくれた。現代において多様に立ち現れる〈共〉から大都市の〈公〉とは何かに迫っている。
東京をはじめ日本の都市には、外国人観光客が信じられないほど増えた。彼らは、ピカピカの高層ビルが林立する表通りから、一歩裏通りに迷い込み、ディープな東京を発見してその虜になる。
日本の都市では、街路や広場といった公空間は貧弱だけれど、路地裏などスキマ的共空間の魅力は以前から認められていた。栗生さんとホルデンさんが主題としている銭湯は、こうした界隈の生活インフラとして不可欠だった。
日本があこがれてきた欧米都市では、誰にでも開かれた公共空間が、都市の観光化やブランディングによって商業主義に浸食されることへの批判が強まっている。他方、東京では、高度成長期に整備してきた主要駅界隈など都市空間が再編の時期を迎え、大きな抵抗に合うことなく民間主導で次々と生まれ変わろうとしている。
渋谷についての太田さんの論考には、圧倒的な民間開発の内に、意外にも〈公〉が芽生える予感がある。それは田村さんが指摘するように、再開発が渋谷のゲニウスロキを期せずして触発しているからなのかもしれない。渋谷ばかりでなく都市東京の駅周辺が一気に変わり出している。闇市研究から、これに一石を投じているのが石榑さんの論考だ。
ムシーさんとマシップ-ボスクさんは、東京の隙間システムが都市構造をなしているという。また、篠原さんは、わかりやすくない有用性の隙間を隙間のままにしておくことの大切さを論じている。路地の張り巡らされた界隈が東京の魅力であり、これを再開発で消去してしまったら、巨大都市東京は窒息してしまう。でも、親密な共空間だけで巨大都市は成立しない。
2020年オリンピックに向けて迷走する都市東京でうごめいているのは、はたして共空間と商業主義の幸せな関係なのか、それともアジア発次世代の公空間の胎動なのか。本特集を、東京発の公共空間論への序として読んでいただきたい。

「地域開発」編集委員
東京大学教授 岡部 明子

特集にあたって
岡部 明子 「地域開発」編集委員・東京大学教授
都市東京の未来
北山  恒 建築家、法政大学教授
渋谷駅再開発の中のサンクチュアリ
田村 圭介 昭和女子大学環境デザイン学科 准教授
シブヤから考える都市の変化
太田 佳代子 編集者・キュレーター
東京に公空間はあるか
内田 奈芳美  埼玉大学人文社会科学研究科准教授
銭湯は公空間か共空間か消費空間か
栗生 はるか 文京建築会ユース
東京の銭湯にみる都市コモンズの未来
サム・ホールデン 東京大学大学院修士課程
隙間空間の「有用性」について
篠原 雅武 京都大学非常勤研究員
東京の今と闇市
石榑 督和 東京理科大学工学部助教
Tokyo: Interstice as Urban Structure
Zaida Muxi Universitat Politècnica de Catalunya-BarcelonaTECH
Enric Massip-Bosch Universitat Politècnica de Catalunya-BarcelonaTECH
公共空間論への序
岡部 明子 東京大学教授
◎調査報告
世界都市ニューヨーク・ハーレムで生きる移民の戦略
榎並 ゆかり 龍谷大学地域協働総合センター
◎新連載(第1回)地域自治組織は、今!!
天国に一番近い里
安藤 周治 特定非営利活動法人ひろしまね理事長
◎連載(第20回)現場で活躍できる自治体職員とは−出る杭を伸ばすには
出る杭をさらに伸ばす5つの能力
浦野 秀一 あしコミュニティ研究所所長
◎センター事業<地域政策見学会報告>
大手町ホトリア街区(大手町パークビルディング、大手町タワー・JXビル)
研究グループ
◎センター事業<「ハウス・オブ・ザ・イヤー・イン・エナジー」表彰式の開催>
自主事業  
◎書評 脱工業化都市研究会 編著『トリノの奇跡 ?「縮小都市」の産業構造転換と再生』
宗田 勝也 同志社大学客員准教授
総目次
編 集 部  
裏表紙 生きる−山梨県道志村 地域があり夢が生まれる
香西  恵 『道志手帖』編集長

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