2017年12・1月号
通巻623号

特集 産業都市・京都の未来-歴史都市の産業政策-

人口の減少と高齢化の進行により地域の疲弊が大きな問題となり、全国で、地域の振興と活性化に向けた様々な努力と工夫が重ねられてきた。にもかかわらず、地方の衰退と東京一極集中は現在も収まる気配がない。こうした中で、東京とは異なる価値観のまちづくりを進めてきたのが京都である。
この秋も、京都は溢れんばかりの観光客で賑わい、連日のように京都の歴史や文化を紹介する特集番組が放映されていた。文化庁の京都移転に先立ち、平成29年4月には「文化庁地域文化創生本部」も開設されている。 京都市は高度成長期以降、他の大都市と比較して成長のスピードが遅く、1980年代から1990年代にかけて、各界から「産業・経済をはじめ多くの分野で全国における地位の低下」が指摘され、「京都の停滞」に対する危機意識が表明されていた。それでは何故、京都は今日の活気、賑わいを取り戻すことができたのであろうか。景観保全、大学の市内への回帰など要因はあげられる。しかし、京都をこよなく愛した文化人類学者・梅棹忠夫氏が既に昭和41年に、「京都は観光都市ではなく、バランスの取れた商工業都市。今後は、文化産業都市を目指すべき。」と講演されている。そこで本号では、京都市の「産業都市」としての側面に焦点を当て特集を組むことにした。
千年以上にわたり日本の都として栄えた京都市には、現在も寺院の本山や家元が集積している。文化財やまちなみの美しさに魅かれ、国内外から5,500万人を超える観光客が訪れる京都市には、「歴史都市」、「文化都市」、「観光都市」というイメージが強いが、実は、京都市は、我が国を代表する産業都市(ものづくり都市)でもある。
明治以前から受け継がれてきた伝統産業に加え、明治以降は近代都市を目指して新しい産業が、そして第二次世界大戦後は、我が国を代表するベンチャー企業が数多く誕生した。現在の京都市は、島津製作所、堀場製作所などの研究開発型企業や、京セラ、日本電産、オムロンなどの高収益企業が活躍する一方で、西陣織、京友禅、仏壇・仏具など国の指定を受ける伝統的工芸品17品目を数える、我が国で最も伝統産業の盛んな都市でもある。京都の産業を考える場合、京都大学をはじめとする大学の存在も抜きには語れない。
しかしながら、これまで、産業都市(ものづくり都市)としての京都の全体像が示されたことがない。今回の特集は、「産業都市・京都」の歴史や特徴、奥深さについて、企業、大学、行政、経済団体、産業支援機関などで長年にわたり京都産業と関わりを持ち、私自身が産業政策を進めるにあたってお世話になってきた皆さんから、京都産業を多角的に紹介、分析いただくことで、「産業都市・京都」の過去、現在、そして今後の姿と可能性について明らかにしようというものである。
本号が、読者の皆さんの京都産業への理解と関心を深めることにつながれば幸いである。

龍谷大学政策学部教授(元京都市産業戦略監)
白須 正

特集にあたって
白須 正 龍谷大学政策学部教授
産業都市としての京都-京都産業の過去、現在、未来-
白須 正 龍谷大学政策学部教授
京都における島津製作所
吉田 佳一 株式会社島津製作所 顧問
京都でしか誕生しえなかった京セラ
大田 嘉仁 京セラコミュニケーションシステム株式会社 顧問
京都が育む起業家精神
辻 理 サムコ株式会社 代表取締役会長兼社長
イノベーション都市・京都と産学公連携-大学の役割-
松重 和美 四国大学 学長
京都市の新産業政策
石田 洋也 京都市産業観光局新産業振興室長
未来の京都を担う企業の育成
孝本 浩基 公益財団法人京都高度技術研究所地域産業活性化本部 本部長
ベンチャー企業の創出、育成の可能性と課題
今庄 啓二 前フューチャーベンチャーキャピタル株式会社取締役会長、JOHNAN株式会社社外取締役
産学連携インキュベーションによる京都型ベンチャー企業の創出
江村 寛計 独立行政法人中小企業基盤整備機構 近畿本部 経営支援部 支援拠点サポート課長
京都におけるイノベーションハブ- KRP(京都リサーチパーク)
水野 成容 京都リサーチパーク株式会社 常務取締役
「知恵産業のまち・京都」に向けた取り組み
柴 隆利 京都商工会議所 中小企業経営支援センター知恵産業推進室 室長
京都から生まれる未来の伝統-京都の伝統産業の現状と可能性
各務 亮 株式会社電通 京都支社 文化事業構想部プロデューサー
京都クロスメディアパーク構想について
西村 敏弘 京都府商工労働観光部ものづくり振興課 課長
産業戦略としての創造都市・京都
佐々木 雅幸 同志社大学 経済学部 特別客員教授
◎連載(第4回)地域自治組織は、今!!
共助を仕組み化して山村の暮らしを支える
斎藤 主税 特定非営利活動法人 都岐沙羅パートナーズセンター理事・事務局長 
《センター事業》
地域開発研究懇談会 「位置情報のインフラが新たな社会を支える」を開催
研究グループ
Library
編集部
裏表紙 生きる-京都市
“靴磨き”を貰い受けた若者たち
魚見 航大 株式会社革靴をはいた猫・代表

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