2018年2・3月号
通巻624号

特集 古民家を、開く。

そこかしこで、古民家再生である。本特集は「開く、開放する」という視点から考えてみた。民家はそもそも人の住まいであるから、本来、家族が住むための器のはずだ。それを、家族以外の人に、住む以外のために、なぜ「開く」のか。
今最も華やかな動きが、古民家を「ビジネスに開く」だろう。居住は収益を生む活動ではないから、住まいに投資するのは本来おかしい。これまで先祖代々の住まいとして守ってきた人たちは、維持管理の出費に悩まされるばかりだった。それを、宿泊施設やカフェに転用して、儲かるビジネスにしようというものだ。政府の地方創生や観光まちづくりが追い風になった。古民家一棟貸し宿「まるがやつ」は、建築家の牧野嶋さんが、物件の入手から、改修設計、宿の経営まで一手に引き受けた、古民家トータルビジネスである。
古民家に資産価値がないため、資金調達には苦労する。地域金融の出番である。篠山モデルを参照しながら、地域の金融機関がどう支援できるのか、北陸銀行の石?さんに紹介していただいた。古民家の魅力は、その土地柄を体感できるところにある。それをうまく活かして全国スケールの会員制の古民家民宿ネットワークを目指しているのが、五城目町から始まったシェアビレッジである(小池論考)。他方、「住まい」であることにこだわって、豪雪の十日町で古民家に「ソーシャルな隠居」と決め込む西村さん。
第2は、「社会に開く」である。すがいさんは、東京近郊の畑と古民家で、子育て支援や子ども食堂などの活動を行なっている。ナラティブホームの創設者として知られる医師の佐藤伸彦さんは、古民家を診療所にした。
加瀬澤さんは、古民家の再生を引き受けてみて、自分の山の木を使うことと不可分であることを知った。民家は地域の自然環境と繋がっていたのだ。「周辺環境に開かれ」ていた。茅場があり、松林があり、茅葺き民家があって里山文化を形成していた。茅葺きに詳しい安藤さんや奥さんが指摘しているとおりである。
民家では、近隣コミュニティに開放的な空間だった。酒井さんは、東京の郊外住宅地育ちで、隣接する集落の古民家を仲間たちと活動の場にしている。「特に大震災後、若者達にとっては開かれた古民家が心地よく感じられる」ようになったという。西村さんも、2011年が転機になってソーシャル隠居を始めた。
私たちは、伝統的な民家は、守ってあげないとなくなってしまう弱いものと思い込んでいる。でもそうだろうか。古民家を開くさまざまな動きをこうして見てくると、私たち現代人が、古民家に救いを求め、便利さと引き換えに失ったものを見つけようとしているのではないかと思えてくる。それが、今和次郎の見出した民家のたくましさに通じると、建築史家の藤森さんに話を伺って思った。

『地域開発』編集委員・東京大学教授
岡部 明子

特集にあたって
岡部 明子 東京大学教授
民家は「人間の意識の外」 藤森照信先生に聞く
藤森 照信
岡部 明子
東京大学名誉教授
東京大学教授
古民家再生と地域金融
石崎 陽之 北陸銀行地域創生部
古民家の一棟貸し宿「まるがやつ」について
牧野嶋 彩子
平田 麻実
叶lと古民家 代表
叶lと古民家 担当
古民家再生と地域金融
石ア 陽之 竃k陸銀行地域創生部 主任
シェアビレッジ・プロジェクト:古民家を地域とともに育む
小池 リリ子 東京大学大学院工学系研究科 都市工学修士
古民家に隠居して、開く
西村 治久 ギルドハウス十日町
社会に開く−農地や空き家を子育て支援の場に−
すがい まゆみ 特定非営利活動法人くにたち農園の会 副理事長、古民家「つちのこや」運営
古民家を郊外育ちの活動の場に
酒井 洋平 特定非営利活動法人土気NGO 理事
地域に開かれた古民家診療所
佐藤 伸彦 ものがたり診療所
裏山を手入れして古民家の再生
加瀬澤 文芳 株式会社ゆま空間設計
民家の価値をひきだす里山と農の循環
奥 敬一 富山大学 芸術文化学部 准教授
蘇れ茅葺き民家と里山の循環
安藤 邦廣 建築家、筑波大学名誉教授
◎連載(第5回)地域自治組織は、今!!
住民自治の進化には支援者の進化も必要
斎藤 主税 特定非営利活動法人 都岐沙羅パートナーズセンター 理事・事務局長
◎新連載(第1回)
地方移住をめぐる現状と課題
嵩 和雄 NPOふるさと回帰支援センター 副事務局長
◎センター事業
地域開発研究懇談会「英国における衰退地域のコミュニティ再生
-カンブリア地域での社会的企業や非営利組織の取組-」を開催
研究グループ
Library
編集部
裏表紙 生きる−村上市
根立 龍斗 山熊田生活、始まる

トップページへ戻る