2018年夏号
通巻626号

特集 図書館(書店)機能が地域を変える

本格的な人口減少・超高齢化社会を迎えている我が国では、国・地方自治体の財政制約やグローバリゼーションの進展など、経済社会を取り巻く環境が大きく変化してきている。かつて、職場や商業施設、大学・病院などさまざまな都市機能が集積し、“賑わいの中心”であった地方都市の「中心市街地(=まちなか)」でも、居住人口の郊外転出に加えて、多くの都市機能も郊外に移転した結果、賑わいを失い今や“シャッター通り”と称される光景が全国に広がっている。
このような状況下、国の「地方創生」政策を受けて、地方自治体自らが策定した「地方版総合戦略」に基づき、地方創生の実現に向けた地域振興プロジェクトが動き始めている。そのなかでも、「まちなか」再生の切り札として、駅前遊休地、商業施設や公共施設の跡地に、図書館・書店機能を含む複合施設を新たに設置するプロジェクトに注目が集まっている。
従来、“公設公営”の性格が強かった図書館については、利用者である住民の生活習慣が多様化していくなかで、開館時間の延長や書店・カフェの併設による複合施設化など、より柔軟な運営が求められている。また、事業主体である地方自治体の厳しい財政事情を受けて、コスト削減の観点から指定管理者制度を導入するケースや、大手書店グループ等の民間企業が施設の運営に参画するケースも増えてきている。
他方、機能面についても、書籍の保存・閲覧・貸出など図書館本来の業務にとどまることなく、米国の社会学者レイ・オルデンバーグが提唱する都市生活者にとっての家庭・職場以外の居場所である「第三の場(サードプレイス)」の機能や、ワークショップ等を通じた子どもの教育や高齢者を含む生涯学習機能などを併せ持つことによって、地域文化の創造・発信拠点としても期待が寄せられている。
人口減少と高齢化が同時に進行している地域では、公的部門の財政制約による資金不足に加えて、地域振興プロジェクトの担い手となる人材の不足も深刻になっている。地域が自立していくうえで重要なことは、学びを通じて地域の成り立ちや現状を理解し、地域に誇りを持った「地域人材(=志民)」を、自らの手で発掘・育成していくことである。その拠点としての図書館への期待は、今後ますます高まることが予想される。
本特集では、全国各地において開設準備の段階から住民を含む多様な主体との協働により、独自の運営理念を掲げて、特徴的な活動を続けている図書館(書店)について、それぞれの事例研究を通じて、「地域における交流拠点」、「地域文化の創造・発信拠点、」、ならびに都市生活者に不可欠な「第三の場(サードプレイス)」としての可能性について考えてみたい。

『地域開発』編集長・一般財団法人日本経済研究所
大西 達也

■第500 回記念「地域開発研究懇談会」を開催!
泉 浩二 一般財団法人日本地域開発センター 常務理事
特集にあたって
大西 達也 『地域開発』編集長・一般財団法人日本経済研究所
第三の場(サードプレイス)としての図書館
久野 和子 神戸女子大学文学部准教授
八戸ブックセンターの試み
音喜多 信嗣 八戸ブックセンター所長
せんだいメディアテーク:図書館機能を備えた美術・映像文化の活動拠点の試み
田中 富男 仙台市教育局生涯学習部生涯学習課長
太田駅前の新たなランドマーク「太田市美術館・図書館の試み」
富岡 義雅 太田市美術館・図書館 館長補佐
絵と言葉のライブラリー ミッカ 公民連携の子ども限定図書館
新谷 敬正 葛飾区政策経営部政策企画課主任
千代田区立図書館の試み セカンドオフィス利用
小出 元一 千代田区立千代田図書館 館長
小さな村の小さな図書館-いごこち日本一の図書館をめざして-
高野 良子 舟橋村立図書館長
図書館は屋根の付いた公園〜本がひととまちをつなぐ〜
吉成 信夫 みんなの森ぎふメディアコスモス 岐阜市立図書館 館長
ことば蔵の試み
綾野 昌幸 伊丹市教育委員会・都市活力部(図書館長兼務)
オーテピア高知図書館の試み
小林 純子 株式会社日本経済研究所社会インフラ本部公共マネジメント部 研究主幹
BIZCOLI:地域シンクタンクが運営するビジネスライブラリ
岡野 秀之 公益財団法人九州経済調査協会 事業開発部長兼BIZCOLI館長
図書館行政における『協働』の現在と未来
岡本 真 アカデミック・リソース・ガイド株式会社 代表取締役
図書館で地域が変わる、未来を拓く〜ソーシャルイノベーションを起こす図書館へ
太田 剛 図書館と地域をむすぶ協議会チーフディレクター、編集工学機動隊GEAR 代表/慶應義塾大学講師
本の学校の試み-知の地域づくりと出版の未来へ
柴野 京子 特定非営利活動法人本の学校 副理事長、上智大学
◎書評 R. へスター著、土肥真人訳 「エコロジカル・デモクラシー」
中村 良夫 東京工業大学名誉教授
◎連載(第3回)
地方移住をめぐる現状と課題 3 〜移住者のなりわいとしての継業の可能性〜
嵩 和雄 NPOふるさと回帰支援センター副事務局長
◎新連載
老いる郊外住宅地〜住み続けるまちにするための挑戦と試み〜
長瀬 光市 慶應義塾大学政策メディア研究科 特任教授
エッセイ/ニューヨーク主夫通信 その1
飯島 克如 一般財団法人日本地域開発センター客員研究員
裏表紙 生きる−鳩山町
菅沼 朋香 アーティスト・鳩山町コミュニティ・マルシェ

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