2019年春号
通巻629号

特集 都市空間活用における公民連携

全国各地において都市中心部に立地する公園・広場等のオープンスペースの活用に注目が集まっている。その背景としては、地方都市の多くにみられる空洞化した中心市街地再生のための拠点整備あるいは、東京・大阪等の大都市圏のように、近隣住民だけでなく、今後も増加が予想される外国人観光客も含めた集客交流拠点の形成による都市全体の価値向上への期待もあげられる。
地方自治体の管理する都市公園等に関しては、2017年6月の都市公園法、都市緑地法等の法改正により、収益をあげる公園施設を民間事業者の手によって設置することをスムーズに進め、公園のサービス水準を向上させ、魅力的な公園利用を図るための仕組みである「公募設置者管理制度(Park-PFI)」が創設された。これを契機に企業やNPO等の民間事業者の力を活用した都市のオープンスペース利用が急速に拡大してきている。 都市公園等への民間セクター関与について歴史を遡れば、「群衆遊観の場所」を「公園」に指定していた明治時代には、公園内に茶屋や料亭等が立地する事例が数多く存在していた。戦後は公園内での飲食・物販施設の立地を受けて1956年に制定された都市公園法により、公園管理者の許可を施設設置の要件とする「設置管理許可制度」が設けられた。その後、2003年の「指定管理者制度」導入によって、地方公共団体とその外郭団体に限られていた管理主体が民間企業・団体にも開放されて以降、同制度の導入件数は年々増加するなど、この分野での公民連携が浸透してきている。
今回の法改正では、Park-PFI制度創設に加えて、事業期間の延長や提供できるサービスの幅が広がるなど、参入を希望する民間事業者側のニーズも踏まえたさまざまなインセンティブも付与されており、そのことが公民連携プロジェクトの事業採算性の向上に寄与している。
一方で、既存の都市公園の活用ではないものの、地方都市中心部において新たなオープンスペース(広場)を創出する事例も出始めている。新潟県長岡市で市役所新庁舎と一体整備された市民協働・交流拠点「アオーレ長岡ナカドマ」や、青森県八戸市中心街の新たな回遊拠点であるガラス屋根付き広場の「八戸まちなか広場マチニワ」など、従来のような商業施設を核としたハコモノではなく、中心市街地(まちなか)における新たな賑わい拠点として「広場」を設置する動きである。その際の特筆すべき共通点は、その計画段階から運営に至るまで、地方公共団体があらゆる過程で幅広い市民の参画を得ていることである。
本特集では、従来の指定管理者制度にPark-PFI制度を加えた公民連携手法による全国各地の都市公園等の活用事例の検証を通じて、民間事業者の創意工夫を最大限活かした都市空間におけるビジネスチャンスの創出や新たな魅力創造の可能性について考えてみたい。

「地域開発」編集長・一般財団法人日本経済研究所 常務理事
大西 達也

特集にあたって
大西 達也 「地域開発」編集長、一般財団法人日本経済研究所 常務理事
都市公園の質の向上に向けたPark-PFIの活用について
町田 誠 元国土交通省都市局公園緑地・景観課課長、公益財団法人東京都公園協会特命担当部長
噴火湾パノラマパークとPFI 事業について
吉田 種栄 八雲町公園緑地推進室 次長
「マチニワで街に輪を!」人が出会い輝く街を目指して〜八戸まちなか広場マチニワ
安原 清友 八戸ポータルミュージアムはっち 前館長 八戸市商工労働部観光課長
公共空間を活用したまちの賑わいづくり〜都市公園と道路でのイベント実施によるエリアマネージメント
柏木 直行 歌舞伎町タウン・マネージメント事務局長
行政・民間・地元が一体となった持続可能な公園運営〜豊島区南池袋公園の再整備
平賀 達也 潟宴塔hスケーププラス代表取締役
地域の拠点として愛され、市民協働で育まれる公園管理〜大小54の公園を一括管理(東京都西東京市)
礒脇 桃子 NPO法人NPO Birth 協働コーディネート部長
中心市街地に誕生した「市民協働・交流拠点」〜アオーレ長岡
川合 和志 長岡市市民協働推進部市民協働課 課長
公園一体型複合宿泊施設「泊まれる公園」〜愛鷹運動公園INN THE PARK(静岡県沼津市)
臼井 久人 沼津市産業振興部商工振興課主査
日本初の観光拠点型PMO〜公民連携によりさらに魅力を増す大阪城公園
小林 純子 鞄本経済研究所公共デザイン本部公共マネジメント部研究主幹
アベノ・天王寺エリアの新たな魅力の創造〜天王寺公園「てんしば」
江並 史朗 近鉄不動産 ハルカス運営部 課長(てんしば担当)
動物園における市民協働の取り組み〜北九州市到津の森公園
磯部 伊佐子 公益財団法人北九州市どうぶつ公園協会 事務局長
福岡市×西日本鉄道による「天神ビックバン事業」〜福岡市水上公園
花村 武志 西日本鉄道株式会社 都市開発事業本部 課長

特集2 『プチ田舎』こだいら 

特集にあたって

今から50〜60年前まで、ここいらへんは見渡すかぎり畑だったんだよ。
・・・
家は青梅街道や五日市街道などの大きな道沿いにあるぐらいだったの。
・・・
青梅街道から玉川上水までずうっとまっすぐに自分の土地が続いているんだよ。青梅街道に面した場所は、ヒイラギの垣根になっていて、家屋敷があるのね。
そこを抜けると、小さな用水路があって、きれいな水が流れていたんだよ。用水路の向こうは竹やぶで、春になると、筍がたくさん採れるんだよ。
その先はずうっと畑が続いていて、ところどころ、お茶の木を一列に植えてあったね。それは作物の風よけにも、畑の仕切りにもなっていたんだよ。
畑の先は雑木林で、その向こうに玉川上水が流れていた。

-- 『市報こだいら』2012年1月号「こだいらちょっとむかし」より抜粋

用水と通りからの距離によって土地の使われ方が工夫された短冊の地割は、江戸時代の新田開発によるもので、いわばミニ里山だったといっていい。そこに郊外化の大波が押し寄せた。宅地化が、短冊単位でおこり、短冊農地と短冊宅地がランダムな縞模様のパターンが出現した。これは過渡的で、当然いずれは宅地一色になるものと思われていた。ところが風向きが変わり、農作物の育つ土が身近にあるこの環境に、都市生活者のほうが価値を見出すようになった。
本小特集では、農地と宅地が隣接していることをまちの魅力としてとらえて「プチ田舎」と掲げている小平市に焦点を当てた。「プチ田舎」の原点はどこにあったのか、小林市長にお話を伺った。市長には、都市農地について精力的に提言されている関さんと対談していただいた。
趨勢が宅地化に流されるなかで、小平市で営農を守っている農家さんは、大消費地東京にあることを活かしてどんな工夫をしているのか、小平市をフィールドに調査している杉浦さんによると、何をつくるか、どう売るのか、に加えて体験を組み込むことの3つを指摘できるという。
一住人として出口さんは、小平市で自分事から始めて「面白い」の共感を仲間に広げてきた。農は、自然体でその渦中にある。「プチ田舎」的イメージで都市農地がよいかたちで継承されるには、適切な制度も営農者の努力ももちろん欠かせないが、それ以上に肝心なのは、まちに暮らす人たちの主体的な行動ではないだろうか。

「地域開発」編集委員、東京大学教授
岡部 明子

『プチ田舎』の生活者が、都市の農地を支えていく
対談:小林 正則・小平市長×関 幸子・ローカルファースト研究所代表
『プチ田舎』こだいらに関わる人達
小平市にみる都市農業
杉浦 匡 東京大学大学院生
体験農園で利用者たちと築き上げてきたもの
粕谷 英雄 「みのり村」園主
市民活動と都市農業・農家をつなぐ
伊藤 規子 NPO 法人 小平市民活動ネットワーク
公園からはじまる「ふるさとづくり」〜たけのこ公園、ネオふるさと村の事例〜
出口 みちたか
◎連載(第4回)
老いる郊外住宅地(4)〜新陳代謝が可能なまちにするための試み〜
長瀬 光市 慶應義塾大学大学院特任教授
増田 勝 NPO まちづくり協会副理事長
エッセイ/ニューヨーク主夫通信 その4
ニューヨーク郊外の水道
飯島 克如 一般財団法人日本地域開発センター客員研究員
ライブラリ・総目次
編 集 部
裏表紙 生きる−与論島
協力隊任期終了後、起業にチャレンジ
佐藤 伸幸 奄美群島認定エコツアーガイド、奄美群島地域通訳案内士(英語・中国語)

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