2019年夏号
通巻630号

特集 令和の時代の持続可能な圏域のあり方を考える

人口減少基調が確実な、令和の時代に適した自治体と圏域の姿とはどのようなものであろうか。
面白いもので、国土や地域の人口が増加しても減少しても、合併をはじめとした圏域の統合の議論はこれまで周期的に行われてきた。人口増加局面では、都市化や経済活動の地理的拡大、また行政サービスの高度化に対応するため、圏域の範囲や自治体のキャパシティを大きくする必要性が唱えられた。人口減少局面の今は、小規模自治体の行政サービスの維持、自立できる地域経済圏の設定、縮小財政に見合った行政サービスの再構築、といった課題に、より広い圏域で対応すべきではないか、といったことが議論されている。
行政サービスの圏域の包括的な統合となる市町村合併は、全国規模では明治(1898年ごろ)、昭和(1956年ごろ)、平成(2006年ごろ)と、おおむね半世紀ごとに進められてきた。この経験則から考えると、2019年から始まった令和の時代に、再び全国レベルで合併が進められる可能性は高くないように思える。平成の大合併が、喧々諤々の議論の末、落ち着くところに落ち着いたと考えれば、それからまだ10年余りしかたっていない今、再び合併について検討するのは、議論の蒸し返しと捉える人が多いだろう。
他方、行政サービスや地域政策の個別の統合となる種々の広域連携は、戦前から様々な形で進められてきた。地方自治法に基づく事務の共同処理の仕組みは、2014年に連携協約、事務の代替執行といった新しい制度が追加されるなど、段階的に改正・拡充されてきた。また旧自治省からの広域連携の働きかけの主要な枠組みであった広域行政圏の形成が、2009年から定住自立圏構想の推進に置き換わり、また2014年には地域経済を支えるより大きな圏域を想定して連携中枢都市圏構想が加えられた。また部門別では、例えば水道法が昨年改正され、水道事業の広域連携が促されることとなった。
こうした圏域に関連する近年の一連の制度改正の基本的な特徴は、望ましいと考えられる広域連携を国や都道府県が推奨し支援しつつも、主な判断は市町村に委ねられるという、水平的な性質の強い仕組みである。今後さらに進行する人口減少に対してそれぞれの市町村が下す判断は、自らの存続を賭けたこれまで以上に重いものになると想像される。
本特集では、総論としての圏域の形成の考え方、経済圏としての圏域の可能性と課題、人口減少に関連する主要な部門別の各論としての圏域のあり方、また現代の日本の議論の参考となる海外事例について取り上げた。それぞれ第一人者から若手まで、また学識を中心としつつ実務経験者も含めた専門家に論じて頂いた。
現在行われている、第32次地方制度調査会での「圏域」の検討にかかる議論や、各地域での圏域・広域連携の取組みの参考にして頂ければ幸いである。

「地域開発」編集委員・東京大学准教授
瀬田 史彦

特集にあたって
瀬田 史彦 「地域開発」編集委員、東京大学 准教授
自治体間連携のプラットフォーム改革
辻 琢也 一橋大学大学院法学研究科 教授
自立に必要な圏域と広域連携のあり方-「自立」のための「自律」へ
片山 健介 長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科 准教授
小規模自治体と圏域行政〜自治と持続可能性の観点から〜
嶋田 暁文 九州大学 教授
地域経済構造分析を踏まえた自立可能な地域経済圏域のとらえ方
中村 良平 岡山大学大学院社会文化科学研究科・経済学部 特任教授
「自立」を目指す圏域論から「公正」を考える圏域論へ
菅 正史 下関市立大学 准教授
自立に必要な付加価値を生み出す圏域をビッグデータで探る
福田 崚 株式会社帝国データバンクデータソリューション企画部総合研究所研究員/
東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻 特任研究員
持続可能な水道事業経営に向けた水道広域化の現状と課題
滝沢 智 東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻 教授
地域公共交通の維持が可能な圏域と広域連携の現状
高山 純一 金沢大学理工研究域地球社会基盤学系 教授
公共施設サービスからみた圏域のあり方
恒川 和久 名古屋大学大学院工学研究科 准教授
地域包括ケアシステムにおける日常生活圏域とローカル・ガバナンスのあり方
畠山 輝雄 鳴門教育大学 准教授
フランスの小規模自治体コミューンと広域連携組織の関係
木村 俊介 明治大学ガバナンス研究科 教授
米国デトロイト市の財政破綻と圏域について
犬丸 淳 島根県総務部長
◎連載(第5回)
老いる郊外住宅地(5)〜ベッドタウンをどう変えるか〜
長瀬 光市 慶應義塾大学大学院特任教授
○エッセイ/ニューヨーク主夫通信 その5 
娘の誕生日
飯島 克如 一般財団法人日本地域開発センター客員研究員
○センター事業
第503回地域開発研究懇談会を開催
研究グループ
ライブラリ
編集部
裏表紙
生きる〜西粟倉村
田畑 直 (株)百森 共同代表

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