2020年冬号
通巻632号

特集 総「関係人口」化する日本

地域にとって、移住は望めなくても、せめて交流人口以上の貢献をしてくれる人口を増やせるのではないか--それが、国全体の人口が減少するなか「関係人口」として関心を集めている。総務省が2018年度から「関係人口創出モデル事業」をスタートさせ、国土審議会の部会では住み続けられる国土を維持するために関係人口に注目するなど、国レベルの政策に取り上げられるようになった。
今回、関係人口の話題の渦中にある人たちに寄稿をお願いした。小田切さんが言うように地域との「関わりの階段」を上り詰めた先が「定住」なのかどうかはともかく、誰もが関係人口には濃淡があると認めているようだ。
とはいえ、ふわっとした概念のままでは政策指標に馴染まない。そこで国交省は関係人口の類型化を目指しアンケート調査を行なった。今回の特集はその結果速報でもある。具体的には、定期的・継続的に滞在し、地域と直接的に関わる行動をしている人をまず抽出したところ、3大都市圏を対象とした調査で1/4程度になった。それをさらに行動内容によって4類型に分けている。関係人口の地域との関わりの質を高めていくには、「つながる機会」の確保の重要性が浮かび上がってきたという。実践型インターンシップの参加学生が複数移住している辰野町で、「関係人口仲介人」がカギだと指摘されているとおりだ。また、松原さんの運営している人と地域をつなげるサイトSMOUTもその役割を果たしている。さらに、マジョリティであるフツウの会社員がどうしたら地域と関わるようになるのか、関係人口の裾野を広げる意味で重要だ(小津さん)。
関係人口ブームの火付け役となった『ソトコト』の指出さんによると、関係人口とは「まちを幸せそうに歩く若者」。東京生まれ東京育ちの若者が増えるなか、潜在的に田舎暮らしに興味を持っている人は多い(谷口さんら)。では、彼らふるさと難民の心を虜にする魅力とは何か。それは、ステキな田舎町というよりは、自分が関われそうな課題が見つかって解決しようと思えることのほうかもしれない(安部さん)。いわゆる「関わりシロ」だ。馬場さんは、二地域居住先の南房総地域を襲った台風の経験から、地域の安全保障の観点から見れば、最も濃い関係人口は「消えない支援者」になってくれる人たちだという。高齢化した地方では、地元企業で働く元留学生は、貴重な働き盛りで頼りになる(高澤さん)。関係人口を増やすことは手段であって目的ではない(西村さん)。
太田さんが、小田切さんの談として「若者たちは海外の途上国と日本の地方を等距離で見ている」と書いている。輪島カブーレではまさに青年海外協力隊経験者が日本の地方の課題解決に取り組んでおり、関係人口の要になっている。そして輪島はじめ佛子園の運営する施設にはいつも温泉がある。お年寄りたちが、「私たちの温泉に入りにいこう」という気持ちになるのだという(原さん)。彼らは定住人口だが、社会との関わりにいつの間にか億劫になってしまっていた。定住人口だからといって地域活動に誰もが参加しているわけではない。郡上八幡のまちづくり会議の黒本さんがいうとおりだ。
課題を設定し解決する熱(太田さん)や熱量(安部さん)が、都会からたまたま訪れた若者をも、地元に住んでいながら地域と関係の薄れた人たちをも、関係人口の渦に巻き込んでいく一総「関係人口」化していく日本の未来が見えたような気がした。

『地域開発』編集委員・東京大学教授
岡部 明子

特集にあたって
岡部 明子

『地域開発』編集委員、東京大学教授

「関係人口」の意味と意義
小田切 徳美 明治大学教授
関係人口の類型化・定量化〜国土交通省「地域との関わりについてのアンケート」結果から
田中 康嗣
小路 剛志
平野 達郎
伊藤 美早紀
国土交通省国土政策局総合計画課 課長補佐
国土交通省国土政策局総合計画課 企画専門官
国土交通省国土政策局総合計画課
国土交通省国土政策局総合計画課
辰野町がすすめる関係人口とは〜信州フューチャーセンターの試みから〜
一ノ瀬 敏樹 辰野町まちづくり政策課 課長
インターネットから始まる地域との関係の紡ぎ方〜SMOUTから見えてくる人と地域のつながり方〜
松原 佳代 カヤックLiving代表取締役
「潜在的」関係人口としての会社員
小津 宏貴 株式会社三菱総合研究所地域創生事業本部地域産業戦略グループ研究員
Society5.0時代の関係人口を考える
谷口 守
川崎 薫
東 達志
筑波大学システム情報系社会工学域教授
東日本電信電話株式会社千葉事業部茨城支店
筑波大学システム情報工学研究科社会工学専攻
二地域居住は被災地の“消えない支援者”となる
馬場 未織 NPO法人南房総リパブリック
留学生が地域産業を担う「濃い関係人口」となる可能性を探る
高澤 由美 山形大学助教
島根県益田圏域の地域づくりに貢献する首都圏の人材
西村 忠士 日本ユニシス、東京大学大学院
コラム:青年海外協力隊経験者による関係人口
原 正義 輪島KABULET、佛子園職員
郡上八幡との関わり「好きで通う」が仕事に繋がる
黒本 剛史 八幡市街地まちづくり会議
地域に熱と挑戦を起こそう
太田 直樹 劾ew Stories代表、総務省政策アドバイザー
関係人口を捉え直す〜関係人口から新たな社会を
安部 敏樹 株式会社Ridilover、一般社団法人リディラバ 代表
関係人口がひらく未来
指出 一正 『ソトコト』編集長
◯エッセイ/ニューヨーク主夫通信 その7 
ハリソンの年末・年始 断章
飯島 克如 一般財団法人日本地域開発センター客員研究員
◎連載(第7回)老いる郊外住宅地
〈座談会〉ベッドタウンの再生は可能か(上)
長瀬 光市
井上 正良
増田 勝
慶応大学特任教授
井上景観研究所所長
NPO 法人まちづくり協会 理事長
裏表紙 生きる〜富士河口湖町
身近にあって、毎日でも来られるお店をめざして
梶原 あき子 太陽テラス

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