2020年春号
通巻633号

特集1 オリンピックからコロナ禍へ

7年前、56年ぶりの五輪招致に成功した日本は、長引く不況の只中で成熟社会の新たな未来像を描き、それを実現しようとした。その五輪を隅に追いやった突然のコロナ禍は、我々の生活、そして未来像を否応なく変えようとしている。五輪の開催は未だ不透明だが、コロナ対策に順応しながら、未来像を我々の意思で描き、望ましい社会を築くという志は持ち続けたい。
政府や専門家会議が国民に進める「新しい生活様式」も、未来像を描くという能動的な行為なしには実現が不可能だ。マスク着用や手洗い、また挨拶の仕方を工夫したりお互いの距離を空けたりといったことは、国民一人ひとりの協力と心がけが重要だ。しかし、あらゆる空間の定員を減らし、通勤通学を少なくして遠隔でのやり取りを普及させ、交流や余暇の過ごし方も変えるといったことは、個人の意思や心がけだけでは難しく、技術と制度の改善がなければおぼつかない。幸運にもオンライン会議システムの技術はすでに進化していて、多くの国民もそれに順応しているように見える。しかしそれ以外の条件は整っているだろうか。
3密を避け、新しい生活様式を実現するためには、密度を高めることなく様々な活動を行えるよう社会システムを能動的に改造することが必要だ。例えば、時差出勤や在宅勤務の導入は、国民の健康・安全の観点から部分的に義務化してもよいと考えられる。観光地の混雑や帰省・Uターンラッシュを抑えるため、地域ごとに企業や学校の連休・長期休暇期間をずらすことも有効だろう。
こうした改造には副作用も多々あると思われるが、アフターコロナならば国民の理解が得られやすいのではないだろうか。
そして社会システムの未来像は、すべての人々が含まれるインクルーシブな姿であるべきだ。コロナ禍の影響は全ての人に対して甚大だが、そのレベルは立場によってかなり違う。筆者も教育研究業務や家族のケアで苦労が絶えないものの、幸運にも大きな教育機関の正規雇用者であるため、収入や生活の心配は当座小さい。経営や収入がコロナ禍のショックや新しい生活様式と直結する人達の苦悩は如何ばかりかと思う。すべての人を包摂した姿でなければ、安全の確保と生活の充実を両立できるアフターコロナの未来像は描けない。

「地域開発」編集委員、東京大学准教授
瀬田 史彦

 

特集2 地域で生きる〜私発の地域創生

東日本大震災以後、大都市で暮らす若者が、自らの生活を問い直し、自己実現を求めて、縁のできた安全な地方での暮らしを求める姿が増えてきた。地方回帰は、2000年後半から見られ始め、若者UIターンやソーシャルターンが増えている。そうした若者が、どのように地域に根付き、生きて行こうとしているのか、営んでいこうとしているか。「地域開発」誌の裏表紙に、「生きる」シリーズとして、大きめの写真とともにその地域への定着・取組・模索する若者の姿を紹介してきた、後に続く若者の参考として。
特集2では、コロナ禍で大変な窮状になっている人が多いが、紹介後数年を経た若者に再度登場してもらい、どう変わったか、どう生きてきているか、そして自らの目指すべき地域(社会づくり、地域創生)は何かについて語ってもらった。共通して言えるのは、地域社会(コミュニティ)における自らのポジションを見つけ、なりわい場所を獲得することができたことであろう。多くは、地域内で人々をつなぐ部分に存在意義を見出しているようである。それは、大都市では得られない何かがあるかもしれない。
当面は断続的に続くと思われるコロナ禍により、若者の行動変容がさらに起こるであろうか。あるいは、あらたな社会関係を生み出していくことになるだろうか。 

(編集部)

 

特集1 オリンピックからコロナ禍へ

2020年を迎えた日本:これから考えるべきこと
岸井 隆幸

(一財)計量計画研究所 代表理事、日本大学理工学部土木工学科 特任教授

2020年を超えて今後日本が目指すべき進路
涌井 史郎 東京都市大学 特別教授
コロナ禍から考える健康とリゾート
安島 博幸 跡見学園女子大学観光コミュニティ学部 教授
コロナ禍によるインバウンドの影響とポスト・コロナに向けて
山田 雄一 公益財団法人日本交通公社観光政策研究部 部長
新型コロナによる需要縮小に向けた観光産業と観光地の対策
大野 正人 横浜商科大学 特任教授
コラム/コロナウィルス禍に対するBCPと企業の事業存続耐久期間
西川 智 名古屋大学減災連携研究センター 教授
エッセイ/ニューヨーク主夫通信その8〜コロナウイルス禍の中のNY生活〜
飯島 克如 一般財団法人日本地域開発センター客員研究員

特集2 地域で生きる〜私発の地域創生

農の兼業が育むコミュニティと働き方の多様性〜上山式外部人材の受け入れ方〜
水柿 大地 みんなの孫プロジェクト代表
ポストコロナを見据えて地方創生で目指すべき事
多田 朋孔 特定非営利活動法人地域おこし 理事・事務局長
私の思いが実現する地域に向けて
佐々倉玲於 一般社団法人いなかパイプ 代表理事
コロナ時代の学校が100年続くふるさとをつくる
大野 圭司 株式会社ジブンノオト 代表
グリーンツーリズム、エコツーリズムを軸とした教育・交流事業の推進
川口 幹子 対馬グリーン・ブルーツーリズム協会 事務局長
人と人、人と自然の温かい関係性ある社会をつくりたい
阿部 裕志 株式会社風と土と 代表取締役
尾鷲につくったまちづくり会社で地域課題に挑む〜夢古道おわせのプロモーション事業経験から
伊東 将志 夢古道おわせ 支配人
関わることを、おもしろく。〜僕が考える地方発の地域創生〜
三浦 大紀 株式会社シマネプロモーション、浜田市議会議員
◎連載(第8 回)老いる郊外住宅地 
<座談会>ベッドタウンの再生は可能か(下)
長瀬 光市
井上 正良
増田 勝
慶応大学特任教授
井上景観研究所所長
NPO 法人まちづくり協会 理事長
◯書評/『実践!地方創生の地域経営〜全国32 のケースに学ぶボトムアップ型地域づくり〜』(大西達也・城戸宏史(編著))
岡野 秀之 公益財団法人九州経済調査協会 事業開発部長兼BIZCOLI館長
◯書評/『はじめてでもわかる!自治体職員のための観光政策立案必携』(羽田耕治 編著)
工藤日出夫
編 集 部
埼玉県北本市議会議員
総目次、ライブラリ
裏表紙 生きる〜売木村
生きる力を高める・依存しない暮らし方
能見奈津子 株式会社百匹目の猿

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