2020年夏号
通巻634号

特集 ウィズコロナ・ポストコロナ社会を考える

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)は、昨年末の発生以降またたく間に世界中に拡大し、パンデミックを引き起こしてグローバルな医療危機を招いている。
緊急事態宣言の解除後は、一旦は落ち着くかにみえたが、その後、大都市を中心に全国で感染拡大が続いている。新型コロナウィルスは、毒性が弱いが感染力は強く、また変異が早い。東大先端研の児玉氏によれば、武漢型から西欧型、そして東京等でエピセンター化し、それが全国各地に飛び火していることがゲノム解析で明らかになっている。無症状者による感染が拡大し、一定数の重症者が続くことが厄介であり、感染防止のためにも慎重にならざるを得ない状況である。感染防止には、「ソーシャルディスタンス」の確保が必要とされ、経済活動を持続するためにもマスク生活とともに生活様式の見直しが求められており、社会のあり方を見直す事態ともなっている。
本特集号では、こうした認識に基づいて、ウィズコロナ、ポストコロナ時代における国民の生活様式や国土構造の変化など全国的な課題とともに、地域の現場からの具体的な報告、提案を取り上げた。
まず、新型コロナウィルスの感染が拡大するなかで、その実態は地域によって大きく異なっており、地域ごとに柔軟な対応が必要であったところを、国により一律の規制が敷かれたことの問題点を藻谷氏から提起していただいた。
また、国土構造の変化に関しては、一極集中からそれを緩和する形での多極的構造、面的分散の必要性が指摘されている(大西隆氏、家田氏)。加えて、「緑の復興」を念頭においた地域循環共生圏についても提案されている(松下氏)。他方で、コロナ禍における企業側の対応として、事業継続計画(BCP)の重要性が改めて指摘されている(野田氏)。とりわけ、交通インフラ、特に空港経営にも大きな影響を及ぼしている(西藤氏)。地方に目を転じれば、事業者が事業を継続するためには、原状回復ではなく「ニューノーマル(新常態)」へのシフトが求められている(木下氏)。ポストコロナ社会の研究では、今までにない予防から都市計画、制度設計までが提案されている(羽藤氏)。
地域の現場からは、地域経済への影響についての報告(松田氏、松嶋氏)だけでなく、地域に人が還流する仕組み「人材サイクル」の開発(湯澤氏)について紹介していただいた。さらには、これからの地域における観光の担い手として期待を集めているDMOの果たす役割にも言及し(村木氏)、観光の価値についても提起している(久保氏)。さらに、人が集まることで成り立ってきた商店街が、コロナ禍でどのような取組みが求められるのかについて試行錯誤する姿も紹介している(鈴木氏)。
最後に、各論考を踏まえつつ、編集委員による座談会を設け、ウィズコロナ・ポストコロナを念頭に、仕事・生活の変化から国土構造・都市のあり方、都市と地方の関係、観光産業、地方の可能性などについて自由闊達に語り合った。今回の特集号が、ウィズコロナ・ポストコロナ時代における新たな社会のあり方を考える一助となれば幸いである。

 

感染症の経験と多極分散型の都市・国土
大西 隆 東京大学名誉教授
ポストパンデミック時代の国土とインフラ―転換と進化に向けて―
家田 仁 政策研究大学院大学・教授 東京大学・名誉教授 土木学会会長
新型コロナと環境、地域からの緑の復興
松下 和夫 京都大学名誉教授 (公財)地球環境戦略研究機関シニアフェロー
新型コロナウイルス感染症が問う、国と地方の役割分担
藻谷 浩介 (株)日本総合研究所主席研究員
企業のBCP に変化はあるか
野田 健太郎 立教大学大学院ビジネスデザイン研究科 教授
ポストコロナの空港経営と地域
西藤 真一 島根県立大学総合政策学部 准教授
地方はニューノーマル市場獲得に向けて寛容性、開放性を高めよ
木下 斉 一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス 代表理事
ポストコロナの未来社会構想と教育のリモート化から考える
羽藤 英二 東京大学 学術戦略副室長、大学院工学研究科 教授
編集委員座談会/ウィズコロナ・ポストコロナ社会を考える
大西 達也
岡部 明子
瀬田 史彦
松永 桂子
一般財団法人日本経済研究所 常務理事
東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授
東京大学大学院工学系研究科 准教授
大阪市立大学大学院経営学研究科 准教授
青森県二大祭り中止の経済的影響〜失う「富」から“ポストコロナ社会”を考える〜
松田 英嗣 あおもり創生パートナーズ梶@地域デザイン部長
飯田型 「地域づくり」を基軸とした「人材サイクル」の構築に向けて
湯澤 英俊 飯田市結いターン移住定住推進室 移住定住促進係長
九州における新型コロナウイルス感染拡大の影響と新たな産業の動き
松嶋 慶祐 公益財団法人九州経済調査協会 事業開発部 主任研究員
新型コロナ禍の中で見えてきたDMOの課題と可能性
村木 智裕 株式会社 Intheory代表、前せとうちDMO CMO
ポストコロナ時代の阿蘇観光
久保 尭之 一般社団法人みなみあそ観光局 戦略統括マネージャー
コラム:『商店街』商業空間でできること〜ゆりの木通りからの言伝
鈴木 基生 田町東部繁栄会 会長
◯書評/『マイホームの彼方に 住宅政策の戦後史をどう読むか』(平山洋介著)
海老塚 良吉 比較住宅都市研究会主宰
◎エッセイ/ニューヨーク主夫通信その9〜コロナウイルス禍の中のNY 生活その2〜
飯島 克如 一般財団法人日本地域開発センター客員研究員
裏表紙 生きる〜大川村
400 人の村での7 年間
和田 将之 大川村村会議員

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