2021年秋号
通巻639号

特集1 柔軟化する都市

コロナ禍が続くことで、人の移動が大きく変わった。従来、仕事に集まっていたオフィス街から人が去り、郊外の住宅地に人々が集う。人の移動量は減少し、宅配や移動販売が伸びている。固定的なビルを作り続ける固い都市の機能が、各方面に変化している。いやコロナ禍が、固い都市に既に起こっていた柔軟化を浮き彫りにしてきたのであろう。都市を柔軟化する糸口を考えてみた。
柔軟化の第1のキーワードは、小ささと柔らかさである。コロナ禍の郊外住宅地では屋台やランドリーカフェに、小さく柔らかく解放された場所づくりが進み(三浦)、道路空間を舞台としたスモール・パブリックスペースからのまちづくり(タクティカル・アーバニズム)は世界的な動向となっている(泉山)。こうした展開は、道路制度の柔軟化を引き起こし(坂ノ上)、商業ビルが開発されやすい新幹線駅前でもコンテナ建築が文化創造拠点となってゆく(平原)。更に、コロナ禍で生まれたワーケーションは、働く場所の意味を変える(松村)。
柔軟化の第2のキーワードは、可動性である。固定された都市に対して、クルマを移動する都市空間と考える試みである。商業面では、全国に広がる軽トラ市を可動商店街と見立てた取り組みがあり(戸田)、自動車企業からはクルマを不動産に対する可動産としたモデルが紹介される(藤谷)。可動性は住機能にも及び、バンライフ(可動生活)を進めるスタートアップ企業の躍進(野瀬)や実践者の経験も蓄積しつつある(渡鳥)。都市ぐるみの取り組みとしては、自治体と企業が連携した移動販売のデザイン(上保、川崎)があり、図書館のような公共施設も可動性を持ちつつある(照井)。
こうした柔軟化の経験が蓄積され、縮減や防災にも応え得る都市像となることが期待される。

愛知大学教授 戸田 敏行

 

特集1 柔軟化する都市
戸田 敏行

愛知大学教授

箱化する都市vs屋台的なるもの
三浦 展

カルチャースタディーズ研究所代表

タクティカル・アーバニズム コロナから変革するスモールパブリックスペース
泉山 塁威

日本大学理工学部建築学科助教/一般社団法人ソトノバ共同代表理事

道路空間の柔軟な利活用に向けた取組みについて
坂ノ上 有紀

国土交通省道路局環境安全・防災課

コラム:柔軟化する「フルサット」という上越妙高文化共創拠点
平原 匡

㈱北信越地域資源研究所代表取締役

コラム:都市オフィスの分散化~ワーケーションの今~
松村 茂

東北芸術工科大学教授

クルマはマチになれるのか~軽トラ市から可動都市へ~
戸田 敏行

愛知大学地域政策学部教授

自動車メーカーから見た可動産としての車両の可能性
藤谷 旬生

スズキ株式会社次世代モビリティサービス本部CJP推進部長

インタビュー:快適な移動と感動体験をVANLIFEで
野瀬 勇一郎

Carstay株式会社営業最高責任者

コラム:「あきらめていた生き方」を実現するバンライフの試み
渡鳥ジョニー

ハイパー車上クリエイター

移動販売の社会実験から新しい生活様式を探る
上保 直人

豊中市都市経営部創造改革課主事

コラム:モビリティ事業者と地域をマッチングし、地域課題解決へ
川崎 亮也

㈱Mellow

移動図書館を活用した屋外公共空間での新たな図書館サービス
照井 慎

佐倉市教育委員会教育部社会教育課

 

特集2 新たな防災まちづくりを考える

近年、地球レベルで環境問題への関心が高まるなか、日本では地震や台風に加えて温暖化が主な原因とみられる集中豪雨等によって、毎年多くの地域が甚大な被害を受けている。災害被害の頻発化に伴ない、私たちは今一度、防災まちづくりの意味を問い直す必要があるのではないだろうか。
本特集では、震災や豪雨災害の教訓を踏まえつつ復旧・復興に取り組む事例として、自治体による防災教育と職員間伝承(仙台市)、住民有志による地域防災活動(倉敷市真備町)に加えて、防災に別の目的(スポーツ等)を掛け合わせて新たなステークホルダーを結び付ける発想や、物語を用いて想定外を自分事として認識させる防災啓蒙活動「一日前プロジェクト」といった新たな試みを紹介している。
これからの防災まちづくりには、ハード整備による被害の軽減のみならず、被災後の住民生活や経済活動の復旧・復興までを見据えた取組みとともに、多様な主体間を結び付ける中間支援組織の役割が重要となるであろう。
本特集から得られる示唆を通じて、より多くの人々が自ら防災まちづくりに関わるきっかけが提供できれば幸いである。

『地域開発』編集長 大西 達也

 

「防災×〇〇まちづくり」という新しい防災まちづくりの方向性
廣井 悠

東京大学大学院教授

広がるBCPが地域を救う
野田健太郎

立教大学大学院ビジネスデザイン研究科教授

防災への取組みを他人事から我が事にするために~「一日前プロジェクト」~
西川 智

名古屋大学減災連携研究センター教授

平時および災害時における「中間支援」によるコーディネーションの意義と課題
古賀 桃子

特定非営利活動法人ふくおかNPOセンター代表

大規模水害からの復興 ―平成30年7月豪雨災害の教訓をふまえた倉敷市真備町の取り組み―
磯打 千雅子

香川大学IECMS地域強靭化研究センター特命准教授

防災環境都市仙台の取組み~防災・減災の備えを日常生活に織り込む
橋浦 亮一

仙台市まちづくり政策局防災環境都市推進室長

防災と地域コミュニケーション
岩佐 保宏

モトスミ・オズ通り商店街振興組合理事長

寄稿/クリチバ、そして都市を愛したジャイメ・レルネル氏追悼文
服部 圭郎

龍谷大学政策学部教授

◎連載/韓国を読む その4 韓国の国民生活とデジタル化
江藤 幸治

(一社)アジア未来ラボ顧問、韓国情勢観察家

裏表紙
生きる~深谷市
塚越 久義

埼玉県伝統工芸士 鬼瓦/鬼板師、工房「鬼義」


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