2021年春号
通巻637号

特集 若者人財育成と新しい教育のカタチ

隠岐諸島の海士町からはじまった学校魅力化プロジェクトによって、隠岐島前高校は廃校を免れた上に1学年2学級にまで復活した。逆転の発想によって、高校の復活から地域の再生にまで波及した好例である。本特集では、高校生・高校に焦点をあてた若者人財育成と教育とりわけ地域教育(地域づくり)につながる部分(カタチ)について考えていきたい。

振り返れば、地方では、人口減少による児童・生徒数の減少から、小学校さらに中学校の統廃合がこの数10年で進んできた。コミュニティの核となっていた小学校がなくなると、心の拠り所がなくなり、過疎化はさらに進んだ。それを埋めるべく、廃校の転用・利活用(例 宿泊施設)がなされてきた。並行して、2004年に中央教育審議会による学校の管理運営のあり方答申から小中学校を対象としたコミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)がはじまり、「学校と地域との協働」に力を入れるようになった。結果、実績を上げた学校には、子供を学ばせるために地方移住する親子も出てきた。最近では、地方創生の実現として、高校も含め、さらに強力に推進されてきている。人口減少はさらに進み、高校の再編・統廃合も進んできている。こうした中で、冒頭の海士町のチャレンジで、発想の転換の必要性と高校存続の可能性、すなわち小規模校が持つ意義が理解されるようになった。

 地域づくりを進めていく上で、本来なら小・中・高のそれぞれの段階で、地域教育(地域づくり)が必要である。いわゆる「地域愛」の醸成をすることで、地域づくりへの地域の担い手(人財)が育成されていくと考えている。そのためには、大学等進学・就職を目前にした高校生の段階での「地域における創造的な活動を経験する」ことが極めて大切である。創造的な活動体験で自らが変化すると地域への愛着、地域愛(または第2の故郷愛)が生まれるからだ。

 そうした観点から、本特集で取り上げた3団体(地域・教育魅力化、SBP、聞き書き甲子園)の持続的な取組みは、アプローチは違うが、高校生での創造的な活動経験が得られる要素が多分に含まれている。地域・教育魅力化では、「越境(異質性との出会い)」の受容・価値変化で高校生が変わる、SBPでは高校生が考えた地域課題をビジネス手法で解決した成功体験で自ら覚醒して変わる、聞き書き甲子園では、聞き書きの過程で自らが名人に同化することによって価値意識の転換が起こり、変わっていく。それぞれ相互交流・協働でさらに変わっていく。こうして、地域愛が醸成され、地域を担う大人の候補(若者人財)を自覚し、自分ごととして共感する気持ちを大事にする生き方の醸成につながっていくのではないか。

 来年度から高校に新指導要領が導入される。そのときには、総探(総合的な探究の時間)をどのように活かせるかが、人財育成にもつながるかの分かれ目だろう。教職員の伴走支援が重要であるし、コミュニティ・スクールを支えるコーディネーターも重要である。今の一斉教育に、個別教育重視のマイプロジェクト化が広がることで、教育のカタチが地域づくりへとよりシフトしていくことを期待したい。

一般財団法人日本地域開発センター 北川 泰三

 

座談会「高校・高校生にとっての若者人財育成と地域を考える」
岩本  悠
岸川 政之
澁澤 寿一

一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォーム代表理事、島根県教育魅力化特命官
一般社団法人未来の大人応援プロジェクト代表理事
NPO法人共存の森ネットワーク理事長

高校を核とした地域創生〜地域との協働による「高校魅力化」の軌跡〜
岩本  悠

一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォーム代表理事、島根県教育魅力化特命官

魅力化で生徒が変わる。学校が変わる。地域が変わる。
梅北 瑞輝

宮崎県立飯野高等学校教諭

三崎高校は、どんな生徒でも成長して輝くことのできる小規模高校です!
羽田 智紀

愛媛県立三崎高等学校教諭

津和野での3年間で得た異質なものと出会う経験
池本 次朗

慶應義塾大学環境情報学部

離島留学という一人旅
松本一ロメル

久米島高校2020年卒業生

SBPで高校生人材の開花〜未来の大人と未来を創る〜
岸川 政之

般社団法人未来の大人応援プロジェクト代表理事、皇學館大学教授、百五銀行公務部シニアアドバイザー

SBP交流で高校生が輝く理由
梶田 あゆ美

愛知県立高浜高等学校教諭

交流と地域の支えによって生まれた防災非常食開発プロジェクト
久野 雅己

熊本県立天草拓心高等学校教諭

SBP交流で高校生が輝く理由
木村 朋之
小山内 卓
奈良 靖宏

青森県立鰺ヶ沢高等学校教諭
青森県立鰺ヶ沢高等学校教諭
青森県立鰺ヶ沢高等学校教諭

アニメ・映像作品制作が地域を元気にする
大嶋 武史
山岡 茂治

北海道留萌高等学校教諭
一般社団法人未来の大人応援プロジェクト副代表

「聞く」ことから「つながる」〜聞き書き甲子園20年の歩み〜
吉野 奈保子

NPO法人共存の森ネットワーク理事・事務局長

「居場所」との出逢い
稲本 朱珠

「roots」京丹後市未来チャレンジ交流センター相談員

次世代につないでいく
藤田 達也

北海道大学 森林圏ステーション天塩研究林 技術職員

聞き書き甲子園から得た“生きる学び”
能登谷 愛貴

一般社団法人高根コミュニティラボわぁら

高校魅力化が高校教育や地方創生に及ぼした影響、および、今後の課題 〜地域の持続可能性を高める主流を形成するために打つべき「次の一手」とは?〜
浦崎 太郎

大正大学地域創生学部教授

若者の「自己肯定感」とSBP活動
徳野 貞雄

熊本大学名誉教授、一般社団法人トクノスクール・農村研究所代表

聞き書き甲子園の教育効果と高校魅力化への可能性 〜高校生が「聞き書き」で得たものと地域との協働での生かし方〜
室 貴由輝

岡山県教育庁高校教育課高校魅力化推進室 室長

高校における事業体験教育・地域課題解決型教育の意義
藻谷 浩介

株式会社日本総合研究所主席研究員

■理事長インタビュー
東日本大震災10年を振り返って。復興のスピードが大事
伊藤 滋   一般財団法人日本地域開発センター理事長、東京大学名誉教授
       聞き手 小野 道生  株式会社都市計画設計研究所
           梶原 千尋  株式会社都市計画設計研究所
◎連載/韓国を読む その2
韓国の国民生活とデジタル化
江藤 幸治 一般社団法人アジア未来ラボ顧問、韓国情勢観察家
○書評/
黍嶋 久好 愛知大学三遠南信地域連携センター
○書評/
『下河辺淳小伝 21世紀の人と国土』塩谷隆英 著
片山 健介 長崎大学准教授
裏表紙 生きる〜三重県多気町
夢無限大
西岡 宏起 三重県立相可高等学校 食料調理科 教諭

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