2022年秋号
通巻643号

特集 変容の時代の国土のリ・プランニング

 国土計画への世の中の注目は、相変わらず大きいとは言えない。しかし、国土のよりよい将来像を描き、その実現のために経済・社会を改善したいという欲求は、今でも小さくないようである。
来年夏ごろの閣議決定が予定され、策定作業が続いている第三次国土形成計画全国計画の決定に合わせて、様々な研究会・検討会が立ち上がっている。経済界・労働界・学識者等の有志で政治改革や国家的課題について提言するために、今年6月に発足した令和国民会議(令和臨調)が、 統治構造、財政・社会保障とともに、国土構想の部会を立ち上げたのはその一例である。
 国土計画への関心が高まらないなかでも、国土への関心が続いているのは、国の諸問題を政治、経済、財政といったシステムとしてだけでなく、フィジカルに、目に見える形で捉え改善したいと多くの人々が思うからではないだろうか。それは近年、デジタル化が叫ばれ、メタバース・デジタルツインがより多くの人々にとって一般的になっても、人々の生活のフィジカル・リアルが変わらず重要であると捉えられていることとも重なるように思える。
 ただし、デジタル化がフィジカル・リアルに少なからぬ影響を及ぼすことは間違いない。単にデジタル化された情報やサービスが、ネットを通じてフィジカルな距離を克服するということだけでなく、国土を構成する組織、制度、システムそのものに大きな変化を促す。近い将来のデジタル化の急速な進展を前提とし、むしろそのメリットを各所で活かす国土のリ・プランニングが必要となるだろう。
 デジタル化の進展以外にも、国土に関係する話題が、近年、次々に出てきている。コロナ禍によるニューノーマルへの対応、世界経済の再分断に備えるためのエネルギー・食料安全保障、そして戦後の日本がほとんど意識してこなかった国防のための国土のリ・プランニングまでが求められようとしている。いずれもフィジカルな要素が決定的に重要になる課題だ。
 本特集は、国土形成計画の策定作業に合わせたタイミングでの企画ではあるが、そこで議論されている課題だけでなく、上述のような近未来の課題も含めて、国土のリ・プランニングについて、有識者の論考から考えてみたい。

「地域開発」編集委員・東京大学准教授  瀬田 史彦

デジタル化と国土計画のあり方〜国土2.0〜
西山 圭太

東京大学未来ビジョン研究センター 客員教授

危機の国土計画と国土計画の危機―幻想と願望の国土計画からの脱却―
山ア 朗

中央大学経済学部 教授

地域生活圏とデジタル田園都市国家構想
片山 健介

長崎大学総合生産科学域(環境科学系)教授

国土整備とイノベーション
中島 賢太郎

一橋大学イノベーション研究センター 准教授

工業地域の新展開:カーボンニュートラル化とコンビナート
平野 創

成城大学経済学部 教授

流域治水と土地利用マネジメントの連携
中村 仁

芝浦工業大学 教授

カーボンニュートラル(バックキャスティングによるCN達成)
藤野 純一

公益財団法人地球環境戦略研究機構(IGES)サステナビリティ統合センター 上席研究員

「関係人口」縮減社会における新たな人のつながり
嵩 和雄

國學院大學観光まちづくり学部 准教授

人口減少時代の国土の利用と管理 管理構想の意図と目指すもの
中出 文平

長岡技術科学大学名誉教授

国土計画と政治―全国総合開発計画とスマートシティのあいだ
砂原 庸介

神戸大学大学院法学研究科 教授

ニューノーマルが国土に及ぼす影響と国土計画
福田 崚

岡山大学学術研究院社会文化科学学域(経済学系) 講師

食料安全保障〜国土荒廃の危機
鈴木 宣弘

東京大学 教授

思考実験としての国土計画によるミサイル脅威の低減
高橋 杉雄

防衛省防衛研究所政策研究部防衛政策研究室長

寄稿
所有者不明土地円滑化法の改正と課題
野口 和雄 都市プランナー
理事長連載
「都市再生特区」に関する8つの物語(上)
伊藤 滋 一般財団法人日本地域開発センター理事長、東京大学名誉教授
◎連載/韓国を読む
その8 巨大都市ソウルと韓国の均衡発展
江藤 幸治 (一社)アジア未来ラボ顧問、韓国情勢観察家
裏表紙 生きる〜いわき市(川前町)
三戸 大輔 いわき市地域おこし協力隊隊員

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