2022年春号
通巻641号

特集 テレワーク・デジタル化が地域を変える

 デジタル田園都市国家構想が動き始めている。 そのモデルとして、「スーパーシティ」(国家戦略 特区)には、多くの提案地域の中から、つくば市 と大阪府・大阪市の 2 地域が認定された。また、デジタル田園健康特区(仮称)では、健康医療の課題解決をバーチャル連携する地域に3市町が選定された。全国的なデジタル振興は、目標1000団体に、デジタル実装もしくはテレワーク関連支 援が実施される。広域でデータ連携基盤をつくろうという多気町は、期待される1地域である。本特集では、テレワーク・デジタル化をめぐる考え 方と取組事例から、地域が取り組むべき点を描いてみた。
 デジタル化を遡ってみると、1980年代の郵政省 等の地域情報化政策から始まったと捉えることができるだろう。電電公社の研究所が三鷹市にあったことから、INS の実験が1984年に始まり(当センターも関与)、光ファイバー利用の可能性が研究された。その後、マルチメディア、ICTと時代を経て、現在のデジタル化に至っている(清原)。
 2000年にIT基本法(高度情報通信ネットワーク社会形成基本法)が制定されたが、当時の日本では十分に進展せず、あっという間に隣国の韓国 に追い越されてしまった(連載・江藤)。2021年9月に、それを改定してデジタル社会形成基本法 が制定された。「誰一人取り残さない」、「人に優しいデジタル化」という理念の元に、幸福な生活の 実現、デジタル社会の実現、経済発展の実現を目 標に、行政サービス・暮らし・産業のデジタル化、そしてデジタル・デバイドへの対応が必要とされ、司令塔としてデジタル庁が発足した。
 国に期待されているのは2040年問題を見据えての行政のデジタル改革である。地方では、自治体システム標準化である。そして、人にやさしい デジタル化である(庄司)。そのためには、行政の職員自身が、ITリテラシーおよび周囲の関係 者を巻き込み引っ張っていく改革能力も身に付けることが DX 推進には必要と指摘される(高橋)。福祉国家デンマークはデジタル先進国でもある が、個人番号を元に、あらゆる行政サービスがデジタル化されている。それは、たゆまぬ改善と市民の巻き込み努力の結果だという(安岡)。
 スマートシティを標榜する会津若松市では、オプトインによるデータ提供で、デジタル共助社会を構築してきている。農業、MaaS、防災をはじめとして地域・市民・事業者の三方良しの社会を進めている。企業が主導して進めてきた実験コミュニティFujisawaSSTでは、タウンポータルをはじめとしてデジタル化の推進によって、住みやすい街へと進化してきている。
 早くから各地で取り組んでいるテレワークは、今多様な広がりを見せている。サテライトオフィス(神山町)、ワーケーション(北見市)や共同オフィス(富士見町)はその代表例だが、共通する点は、自分らしいライフスタイルの実現であり、それはよりリアルな対面を希求された結果であろう(松村)。テレワーク・デジタル化が地域を真 に変えていくには、地域ならではの幸福な生活、地域ならではのモビリティ、地域ならではの運用 改善が可能になったときではないか(太田)。
 最後に、デジタル化の延長としてメタバースに注目したい。渋谷と世界をつなぐ架け橋としてのバーチャル渋谷(長田・小泉)、それはさらに広がりを見せている。

一般財団法人日本地域開発センター 北川 泰三

《論考》

テレワーク・デジタル化で地域はどうかわるか
松村  茂

東北芸術工科大学デザイン工学部教授 テレワーク月間実行委員長

デジタル田園都市への期待とギャップをどう埋めるか
太田 直樹

株式会社New Stories代表取締役、元総務大臣補佐官

自治体行政とデジタル改革〜デジタル化で行政を維持し、人にやさしくするには〜
庄司 昌彦

武蔵大学社会学部教授

地域情報化政策の系譜から地域コミュニティのデジタル化を考える
清原 慶子

杏林大学客員教授、ルーテル学院大学客員教授

誰も取り残さないデジタル社会を創るには〜まきこむこと、長期視点でとりくむこと〜
安岡 美佳

ロスキレ大学サステナブルデジタリゼーション・北欧研究所

《事例》

大自然の暮らしと技術が共存する「オホーツクバレー」エコシステムを見据えたワーケーション
西野 寛明

株式会社ロジカル(北見市IoT推進ラボ事務局)

「三方良し」をかなえる共助型スマートシティを目指して
柏木 康豪

会津若松市企画政策部スマートシティ推進室 副主幹

デジタル化によるコミュニティでの運営・暮らし・意識変化
〜Fujisawaサスティナブル・スマートタウンでの取り組み〜
荒川  剛

パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社 ビジネスソリューション本部スマートシティ推進部 部長 兼 Fujisawa SSTマネジメント株式会社 代表取締役社長)

富士見森のオフィス、テレワーク施設整備とその効果
雨宮 陽一

富士見町総務課企画統計係

広域自治体で、データ連携基盤整備を進め地方創生へ!
筒井 尚之

多気町副町長

地域が必要とするDX人材の育成
高橋 邦夫

合同会社KUコンサルティング

インタビュー:住みたい田舎で、デジタル×教育×ワーケーションの実現
竹内 和啓

徳島県神山町/認定NPO法人グリーンバレー事務局長

バーチャルシティで育まれるシティプライド〜渋谷区公認「バーチャル渋谷」〜
長田 新子
小泉 秀樹

一般社団法人渋谷未来デザイン理事 兼 事務局長
東京大学教授/一般社団法人渋谷未来デザイン 代表理事

寄稿
アフターコロナの「アメリカの都市計画」(上) ――気候変動危機と格差に挑む――
矢作 弘 龍谷大学研究フェロー
寄稿
陸と海をまたがるコンクリートの資源循環で水産増殖や脱炭素など一石四鳥を
西川 智 名古屋大学減災連携研究センター教授
◎連載/韓国を読む その6
韓国の国民生活とデジタル化
江藤 幸治 (一社)アジア未来ラボ顧問、韓国情勢観察
裏表紙 生きる〜庄内町
國本 美鈴 庄内町地域おこし協力隊

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