2023年秋号
通巻647号

特集 まちづくりのリデザインと「地域の価値」

3年以上に及ぶコロナ禍を経て、生活や仕事のあり方、行動様式、まちのあり方は変容した。リモートワークやオンライン会議が一般的になり、在宅ワーク、ワーケーションなど、地域やまちづくりのあり方に大きな影響を及ぼすと共に、ウォーカブルシティなど気候変動問題にも配慮したまちづくりがより模索されるようになってきたと感じる。
一方、コロナ禍が明け、再び都市集中の動きも活発である。都心や郊外でビッグプロジェクトによる再開発が進み、にわかに世論も対立を帯びつつある。神宮外苑の開発問題からみえてくるのは、老朽化しつつある建築物を再建するために、経済的価値を追求し再構築していくのか、あるいは歴史をかけて培われた空間の樹木や自然を保護しつつ、スクラップ&ビルドしない方向で継承していくのか、現代の開発をめぐる構図の対立が象徴的にみられる。これは都心に限った話ではなく、一部の郊外、都市再開発にもつうじる話である。
地域は、自然、歴史、文化、産業、暮らしなど市民の営みの舞台であり、時代を超えて継承されてきた。地域やまちは市民の精神生活における表象の集合体として、時代の変化を映し出してきたともいえる。都市にしろ、地方にしろ、縮小しているなかで地域の資源を保全・継承、あるいはリデザインしていくことの意義が問いなおされる時代となった。
翻って、個性的な取り組みを深める小さなまちや地域の動きをみると、人口減少や撤退に縮小、資本に限りがあるなかで、これまでさまざまな方法でまちづくりがおこなわれてきた。各地の地道な取り組みから共通するのは、それぞれの地域で「地域の個性」を価値として再認識し、課題解決に向き合いながら、そのプロセスに多様な主体を巻き込み、持続可能なものにしていくというかたちであろう。小さいながらも継承されてきた資源を再評価し、さらに「循環」させていくことで持続可能なものとしていくという発想がみられるようになってきた。ちょうど前号(2023年夏号)の特集テーマは「地域循環の滞りを手当てする」であった。「循環」はかき混ぜるというより「滞りを手当てする」というニュアンスで捉えられ、その手当ての仕事に価値を見出す「人」の広がりや魅力を感じさせられる。
最近、まちづくりや地域政策の現場では「地域の価値」という表現がよく使われる。ニュアンスとして、新しく生むというより、やはり「滞りを手当てする」という視点が加わる。時間軸は以前の経済成長・拡大の時代より長い。後のいくつかの論考でみるように、政策の場でも学術的にも「地域の価値」の捉え方の作業が進められている。小さいながらも継承し循環させていく、さらには経済的価値に重心を置くのではなく、自然、文化、産業などが共存し小さく持続するということが共通して透けてみえる。
現代のまちづくりのプロセスからみえる神髄はどのようなものか。政策担当(各省庁有志の「地域の価値」勉強会グループ)、地域づくり・まちづくりの支援団体(トヨタ財団国内助成グループ)、実践者(山陰の東西2つの中山間地域・過疎地域:鳥取市鹿野町と島根県益田市匹見)、研究者の4者から寄稿いただいた。立場は違えども、相互につうじる視座から通底してみえてくるところがあるのではないだろうか。

松永 桂子(「地域開発」編集委員)

特集にあたって
松永 桂子

「地域開発」編集委員

まちづくりのリデザインと「地域の価値」
松永 桂子

大阪公立大学 准教授

人間中心のまちづくりから考える「地域の価値」の本質:福岡県糸島市の事例を踏まえて
蕭 耕偉郎

九州大学大学院人間環境学研究院 准教授

ポストコロナの地域におけるモビリティのデザイン─グリスロとグリスロの自動運転に着目して─
鶴指 眞志

国土交通省国土交通政策研究所 主任研究官

霞ヶ関から見る『地域の価値』
酒井 聡佑

国土交通省北海道開発局札幌開発建設部道路計画課課長補佐
(前 国土交通省国土交通政策研究所研究官)

パタン・ランゲージからはじまるまちづくり
山納 洋

大阪ガスネットワーク株式会社 エネルギー・文化研究所 都市魅力研究室長

「持続可能な地域社会・コミュニティづくり」への支援を通じてみえてくる
 一人ひとりの暮らしを中心としたまちづくり像と地域の価値
武藤 良太

公益財団法人トヨタ財団 プログラムオフィサー/国内助成グループ グループリーダー

過疎発祥のまちづくりコーディネーターとしてみえる地域の価値
石橋 留美子

益田市まちづくりコーディネーター

空き家活用のまちづくり20年とこれから
小林 清

特定非営利活動法人いんしゅう鹿野まちづくり協議会

「修行」と「感染」のまちづくり─(元)ヤクザのケンさんに学ぶ人称的連帯のプロセス
大谷 悠

福山市立大学都市経営学部 専任講師

現代資本主義における「地域の価値」とは
除本 理史

大阪公立大学大学院 教授

■特別企画
地域開発レビュー
編集部 フォード財団援助金による活動紹介
◎連載/韓国を読む
その12 巨大都市ソウルと韓国の均衡発展
江藤 幸治 (一社)アジア未来ラボ顧問、韓国情勢観察家
裏表紙  生きる〜飯豊町
後藤 武蔵 飯豊町地域おこし協力隊隊員

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