2023年夏号
通巻646号

特集 地域循環の滞りを手当てする

 サーキュラーエコノミーなど、地球上の代謝循環を解明し循環をよりよくデザインし再創造regenerateしてくべきという考え方が席巻している。こうした管理できる循環中心の西洋的思想に対して、私たち人間がそもそも埋め込まれていて大昔から否応なしに付き合ってきたのは「管理できない」ほうの循環だったのではないか。こっちの循環という観点で地域をみると、人口減少自体は問題でなくなり、循環に生じた滞りを手当てする手が地域にありさえすればいいことになる。
 そこで地域の循環に自ら身を投じて活動しているみなさんに、人やモノたちといっしょになって廻りながら、地域で出会した滞りとどう戯れてきたのかをお尋ねした。
だれもが空き家と格闘している。地域の状況も本人の関わり方もまちまちだが、1点共通していることがある。関わりのある人が「自分で考え、自分で手当てする」ことだ。佐藤布武・あゆさんはそれを「暮らしの当事者性」と呼ぶ。
 大工のいとうさんは、拠点の冷水浦で日常的に建築する行為は「家事」だという。佐藤研吾さんにとっては、「回転運動を続けている生活に油を差し、日々回転体の軌道を変えていく」日常的実践の「革命(回転させること)」になる。始まりも終わりもなく万物が流転している循環に私たちはまみれていて、その全容は解明しようがないが、一人ひとりが日々、より幸福な暮らしに手を伸ばそうと、その滞りを手当てし続けている。政策担当者は、たとえば空き家活用にDIYが有効となるとすぐに一般化したがるけれど、コミュニティ大工の加藤さんはそういう発想自体に釘を刺す。大工仕事のDIYだけでなく「家探しや家主との折衝、契約などのDIYが重要」という。滞りを解きほぐすには、しくみも含めてDIYする熱量が要る。そうして渡邉さんが石巻でたどり着いたのが、死因贈与で空き家を入手しサブリースする方法だった。
 たまたまそこに居合わせた人たちが「自分たちで考え、自分たちで決めて、自分たちでやる」。  その可能性を地縁に縛られず広げるのが、DAO(自律分散型組織)ではないのか。ふるさと納税の返礼品をNFTにするというJPYCの岡部典孝さんのアイディアは、居住地以外で納税でき地域に住民票はなくても地域の決め事に参加し行動できる人を創出するという当初の趣旨に立ち戻るものだ。そして、RulemakersDAOが示すようにしくみも自治的につくる。黒澤さんの建築オフィス化した戸建て団地におけるダイナミックなことの進め方はDAO的だし、今は代謝のすっかり衰えたこの郊外団地でもできた当初は自治がパワフルに機能していた。DAOは新しくて古い。NFTは今、これまで管理不能だったものを管理可能にする方向に用いられようとしているが、むしろ本領が発揮できるのは管理不能なままに不可解な循環と上手に付き合うツールとしてではないだろうか。

岡部 明子 「地域開発」誌編集委員

特集にあたって
岡部 明子

「地域開発」編集委員

循環を外からデザインする、循環の内から手当てする
岡部 明子

東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授

暮らしの当事者性を育む
佐藤 布武
佐藤 あゆ

名城大学理工学部 准教授
一般社団法人生活民芸舎 代表理事

託された空き家から始まる漁村集落の循環
いとうともひさ

特定非営利活動法人ゴンジロウ

空き家だらけの戸建て団地を分散型の仕事場に
黒澤 健一

kurosawa kawara-ten

過疎地の空き家問題の滞りを手当てする コミュニティ大工という新たな手法
加藤  潤

株式会社まるのこラボ 代表取締役

共同体の助けを借りた生活小革命に関する現状報告
佐藤 研吾

一般社団法人コロガロウ  佐藤研吾建築設計事務所

循環の滞りを手当てする新技術
岡部 典孝

JPYC株式会社 代表取締役
一般社団法人ブロックチェーン推進協会理事ステーブルコイン普及推進部会長
(情報経営イノベーション専門職大学客員教授)

空き家問題をめぐる負の循環を解きほぐす─次世代型住まいの在り方に関する考察─
渡邊 享子

株式会社巻組 代表取締役

■特別企画 地域開発レビュー
メガロポリス研究と地域開発センターへの回顧
伊藤 達雄

三重大学名誉教授
元日本地域開発センター評議員

再読
丹下研の国土を捉えるアーバンデザイン〜『日本列島の将来像』から『21世紀の日本』へ〜
東京大学都市デザイン研究室
フォード財団援助金による事業概要紹介

編集部

◎連載/韓国を読む
その11 巨大都市ソウルと韓国の均衡発展
江藤 幸治 (一社)アジア未来ラボ顧問
韓国情勢観察家
裏表紙
生きる〜酒田市飛島
松本 友哉 合同会社とびしま

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