2023年冬号
通巻644号

特集 こども主体の教育・環境を考える

 2023年4月、こども家庭庁が発足する。こどもを取り巻く地域の課題は多様だ。こどもの虐待やいじめ、不登校、自殺、経済的困窮家庭、そして子育て環境も悪化してきている。1994年子どもの権利条約が批准され、その後個別法での対応から、ようやく子どもを社会の中心に据える施策の議論により、2022年6月に「こども基本法」が成立した(竹内)。こどもを取り巻く課題を一体として扱えるようになり、その担当官庁として「こども家庭庁」が設立される(清原)。課題は、こどもの参加のしくみづくり、予算の確保、こどもの意見をどう政策に活かすか等が挙げられている。例えば、予算では、保育士の待遇改善は果たしてどこまで解消されるのか基本的な懸念があり(汐見)、教育国債の発行が議論されてもいいのではないかと考える。
 本誌では、この機会を捉え地域に繋がる「こどもの教育とその環境について考える」特集とした。教育については、明治以降、画一教育が推進されてきたが、戦後教育の見直しの中で、近年では、個性重視への方向に徐々に変わりはじめている。
学校教育における学校の変化は、1990年代の地方分権の推進で地域側の裁量が増えたこと、2004年からコミュニティ・スクールが始まったこと、さらに2017年の学習指導要領の実施、すなわち対話重視のアクティブ・ラーニングの導入によるところが大きい(村瀬)。
 少子高齢化が進む中で、未来の大人であるこどもが地域社会の宝であることを再考する必要があろう。現代社会では、大学受験をゴールとする画一教育システムに馴染めないこどもが増えてきて、フリースクールを始めとする「もう1つの学校」がある程度カバーしてきた。今後は、デジタル化で通信制学校という選択肢を含め、「こどもが通いたくなる学校」を実現する動きがさらに増えていくのではないか(世田谷区)。
こども主体の教育は、イエナプラン教育の学校に代表されるように海外から導入されているが、国内でも先駆的な取組みはある。一例として、「はじめに子どもありき」の教育理念をもった長野県の伊那小学校では、授業は探究型で、教師は寄り添う形となっている(平野)。さらに、地域との協働を可能とするコミュニティ・スクールが成果を挙げている地域では、飛躍的にこどもの能力が高まっている(前川)。幼保でも同様に遊び場を含めて地域との協働が極めて重要である(秋田)。とりわけ子どもが育つ環境を確保することが、幼保小中高の発達に応じて大切である(木下、寺田)。プレーパークは40年前、森のようちえんは20年前からはじまり(小倉)、環境づくり・遊び場は、こどもの学びに大きく貢献している(西野)。
 「こどもの安心できる空間」としての教育空間の実現は、画一教育の教室の解放からはじまり、「学びを楽しくする場」に教室・校舎・校庭自体が変わっていく必要があろう(仙田)。こども主体の教育・環境を実現するためにこども家庭庁には大きな期待を寄せたい。

特集にあたって
北川 泰三

一般財団法人日本地域開発センター

地域で取り組む子ども中心の学校づくり
村瀬 公胤

一般社団法人麻布教育研究所 所長

こども基本法を尊重しこどもがまんなかの社会を目指す
竹内 延彦

こどもの育ちと学び研究所 代表

子ども主体の教育─伊那小学校を事例として─
平野 朝久

東京学芸大学名誉教授

コミュニティ・スクールで実現する子ども主体の教育とは ─美麻小中学校での取り組みと展望
前川 浩一

大町市立美麻小中学校 地域学校協働コーディネーター コミュニティ・スクール推進員(文部科学省)

こども主体の教育・環境を巡って~世田谷区立桜丘中学校の教育と区の取組み~
対談

西郷 孝彦 元世田谷区立桜丘中学校校長
保坂 展人 世田谷区長

子ども主体の保育を進めるには
汐見 稔幸

一般社団法人家族・保育デザイン研究所代表理事 東京大学名誉教授

地域で子どもが育つ条件
秋田 喜代美

学習院大学文学部 教授 東京大学名誉教授 内閣府子ども子育て会議会長

「森のようちえん」としての取り組みと幼児の発達
小倉 宏樹

認定NPO法人よみたん自然学校 代表理事

こどもを育む環境の未来
木下 勇

大妻女子大学 教授 千葉大学名誉教授

子どもが遊ぶランドスケープの創出に向けて
寺田 光成

高崎経済大学地域政策学部 特命助教

子ども夢パークが目指すこども主体の遊び場とは
西野 博之

川崎市子ども夢パーク元所長 総合アドバイザー 認定NPO法人フリースペースたまりば理事長

こども主体の教育空間の課題と展望─学びを楽しくする学校をつくる─
仙田 満 環境デザイン研究所会長 こども環境学会代表理事 環境建築家 東京工業大学名誉教授
「こども家庭庁」設立と「こども基本法」施行により自治体が推進する「こどもまんなか社会」の政策の方向性
清原 慶子 杏林大学客員教授・ルーテル学院大学客員教授 内閣官房こども家庭庁設立準備室政策参与 前三鷹市長
理事長連載
「都市再生特区」に関する8つの物語(下)
伊藤 滋 一般財団法人日本地域開発センター理事長 東京大学名誉教授
◎連載/韓国を読む
その9 巨大都市ソウルと韓国の均衡発展
江藤 幸治 (一社)アジア未来ラボ顧問、韓国情勢観察家
裏表紙  生きる~智頭町
大谷 訓大 株式会社皐月屋代表

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