2024年冬号
通巻648号

特集 国土の未来と今後の国土計画の役割

 全国総合開発計画の時代から、国土計画はほぼ7~8年ごとに策定されてきたが、その役割や日本社会に与える影響は大きく変化してきている。21世紀に入り、国土計画への国民の興味・関心が低迷する中でも、第三次国土形成計画全国計画の策定作業は予定通り進められ、2023年7月に閣議決定された。また8つの圏域での広域地方計画も、策定に向けて作業が続けられている。
 本特集では、東京一極集中、人口減少など、国土をめぐる課題がいまだ山積する現代において、国土計画が果たすべき、または果たすことができる役割を考える。⻑らく国土計画の策定に関与し研究に携わってきた重鎮、今次国土計画の策定に携わった政策担当者、および現在、国土計画に関心を持つ中堅・若手の研究者に、それぞれの立場、経験、専門分野から国土の未来と今後の国土計画の役割について論じて頂く。
 本特集は8本の論説で構成される。
 経済地理学の大家で国土計画に関する著書も多い山﨑氏は、現代の国土形成におけるモビリティとそのハブとなる拠点、とりわけ空港や新幹線など長距離移動の拠点の重要性を指摘する。
 歴代の国土計画や関連する多くの政策に深く関与した大西氏は、開発という言葉で進められた高度成長期に比べ、現在の国土計画では国民が共感できるテーマが見いだせていないという根本的な問題を提起する。
 木村氏は、今次国土形成計画の策定当時の国土政策局長の立場から、デジタル化と地域生活圏の趣旨や背景について論じ、人口減少社会が人手不足や消費低迷などの進行で新たな局面に入ったと危機感を示す。
 国土計画の言説を丹念に紐解く伊藤氏は、人口減少局面の地域で不可欠となる人材について、今次国土形成計画の記述は一見すると具体的なようで、内実は不明確であると指摘する。
 国土計画制度の検証を進める菅氏は、中国地方・九州地方の関連計画の状況を紹介しながら、関係主体同士の意見交換や政策形成過程での広域の配慮といった、国土計画のプロセスの重要性を唱える。
 志摩氏は、国際開発を専門とする立場からグローバルサウスの国土計画の最新状況を報告し、スマートシティなど新たなアプローチも戦略的に活用しながら国土計画の本来の課題に引き続き取り組むべきと主張する。
 東京一極集中の研究の代表者を務める瀬谷氏は、土木工学と経済学を中心に多くの文献から研究の最新動向を紹介し、一極集中に伴う種々の問題をもっぱら家計が負担する構造を改善する必要があると論じる。
 環境問題に対する新たな統合的アプローチを模索する中島氏は、国土管理の方法として、社会的起業家による様々な活動を連結しそれが自律的に国土を覆う「離散的ガバナンス(Discrete Governance)」という概念を提示し、国内外の特徴的な事例を引きながら国土計画への適用の試論を述べる。
 論者の立ち位置は様々だが、いずれの論考からも、国土計画による今後の取り組みが、高度成長 期と同等以上に重要であると感じさせられる。全国総合開発計画の時代から、国土計画はほぼ7~8年ごとに策定されてきたが、その役割や日本社会に与える影響は大きく変化してきている。21世紀に入り、国土計画への国⺠の興味・関心が低迷する中でも、第三次国土形成計画全国計画の策定作業は予定通り進められ、2023年7月に閣議決定された。また8つの圏域での広域地方計画も、策定に向けて作業が続けられている。
「地域開発」編集委員 東京大学准教授 瀬田 史彦

特集にあたって
瀬田 史彦

「地域開発」編集委員 東京大学 准教授

国土の計画と地域の計画
山﨑  朗

中央大学経済学部 教授

国土計画の軌跡と新たな課題─地球温暖化、逆都市化、脱化石燃料・原子力への挑戦、防災減災
大西  隆

一般財団法人国土計画協会会長 東京大学名誉教授 豊橋技術科学大学名誉教授

新たな国土形成計画について─地域生活圏を中心に─
木村  実

東京海上日動火災保険株式会社 顧問 (元国土交通省国土政策局長)

国土計画の変遷から今次国土形成計画に期待すること─国土計画における「人材」への期待の高まりの歴史─
伊藤 将人

一橋大学大学院 日本学術振興会特別研究員

広域地方計画の検証から見た今後の圏域計画の展望
菅  正史

下関市立大学経済学部 教授

国土計画をめぐる国際的潮流  アジア・アフリカ・ラテンアメリカ諸国を中心として
志摩 憲寿

東洋大学国際学部 准教授

現代の東京一極集中と今後の展望
瀬谷  創

神戸大学大学院工学研究科 准教授

離散的ガバナンス試論─点から線、面へと展開する国土計画の可能性
中島 弘貴

東京大学大学院工学研究科 特任講師

■特別企画
地域開発レビュー
編集部 地域開発セミナー等イベントについて
寄稿
事業を推進するはずの県職員は、なぜ事業を終了したのか:ダム事業を対象にその謎に迫る
戸田  香 京都女子大学ジェンダー教育研究所 助教
◎連載/韓国を読む その13
巨大都市ソウルと韓国の均衡発展
江藤 幸治 (一社)アジア未来ラボ顧問 韓国情勢観察家
○書評/『平成災害復興誌 新たなる再建スキームをめざして』 牧 紀男 著
饗庭  伸 東京都立大学教授
○書評/『持続的社会づくりへの提言─地理学者三代の百年─』 伊藤達雄・鈴木康弘編著
荒井 良雄 東京大学名誉教授 帝京大学教授
裏表紙 生きる~ニセコ町
鎌田  諭 ニセコグローブ製作所

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