<地域振興の視点>
2000/07
 
■新しい社会資本整備を目指して
編集委員・日本政策投資銀行 筧 喜八郎

 バブル崩壊以降の日本経済の低迷に対する景気浮揚策として公共投資が中心的役割を果たしてきた。景気回復の効果はみられるものの、財政悪化も目立っておりわが国の社会資本整備のあり方が問われている。地域においても、財政制約が強まる一方、財政負担の重くなる高齢化社会に対応することや分権化社会の進展の中で地域の自立を図ることが課題となっており、社会資本整備についても従来のフロー重視からストック重視へ視点をかえてきている。筆者が2年間にわたって参加した「山形県の公共投資を考える懇談会」では地域の社会資本整備のあり方に関して、社会資本を景観形成や自然との調和を図ることによる豊かな地域社会づくりへの貢献、公共事業の評価システム、効率的効果的な社会資本整備のあり方、公共投資への住民参加の果たすべき役割等多面的に検討がなされた。自治体の方も、現場で公共投資に携わる立場から、今後の地域の社会資本整備について取り組むべき方向性や実践的経験談が報告され、興味深かった。そこで県の懇談会での議論を基に、今後の地域社会資本整備を考える視点をまとめてみた。

 第1は、財政制約が強まる中、地域の社会資本整備を利用者・納税者の視点から、効率的・効果的なものとしていく仕組みづくりが重要である。

 具体的に見ると、一つ目は、効果的な社会資本整備を達成すべく、地域ニーズを最もよく熟知している自治体による分権的決定メカニズムの下で、利用度・利用価値の高い社会的便益の高いプロジェクトに重点を置くことである。このためには費用・便益分析による事前・事後評価、時のアセスメント等の評価システムの構築が重要である。

 二つ目は、効率的な社会資本整備を図るべく、PFIで導入されたバリュー・フォー・マネーの観点からコスト節減に努めることである。例えば、下水道整備における過疎地での個人浄化槽の導入等同一効果に対して最適形態の技術工法の採用、PFI等コスト削減に有用な整備手法の導入、発注方法の改善、既存施設の有効利用や広域連携等による投資コストの削減など、様々な取り組みが期待される。

 三つ目は、厳しい財政制約の下、社会資本整備について、選択と集中をキーワードとして限られた財源での有効性を高めるべく、整備対象の絞り込みと重点的対応に努めることである。個々の自治体が、あらゆる社会資本をフルセット主義で揃えることや地域内での均等的配分を図る全方位型地域政策は、もはや許されない。

 四つ目は、自治体の提供する社会資本は、クラブ財と位置づけられ、受益と負担の牽制システムを構築すべきである。従前の自治体の社会資本は公共財分野ばかりでなく、準公共財や民間領域に近い分野まで税金を投入して安価に提供するため、行政サービスの肥大化が目立っていた。民活型社会資本整備の導入により、利用者からの料金支払いによる受益者負担システムの導入に努めることが必要である。

 第2は、社会資本が市民生活の向上、地域経済の活力創造に寄与する真に地域社会に有用なものとすべく、行政主導による供給者の論理を超えた利用者のための豊かな社会資本整備を図るための創意工夫が必要となる。

 具体的に見ると、一つ目は、社会資本は地域の永久資産として捉え、ストックとしての役割を重視するものである。例えば、公共建築物は地域のランドマークとして美観・デザインを具備することや、街づくりについても従来のタイプの開発型ばかりでなく、歴史的建築物等の保存・修復を積極的に行うことにより、地域住民の誇りとなる地域づくりを図ることである。

 二つ目は、社会資本整備の運営管理面で、行政以外のNPO、ボランティア、民間の専門家の参画を得て、利用者の視点に立った使い易い利便性の高いサービス提供を図ることである。例えば、福祉介護施設をNPO等非営利の専門家に、また公園等の管理をグラウンドワーク運動を行っているボランティアに、さらに芸術工房施設を地域の愛好家にそれぞれ運営委託させる等、社会資本の運営管理の主体や手法面において、利用者の視点に立つことやNPO等の活用によるソフト面の工夫を図ることは重要である。

 三つ目は、社会資本整備の計画・実施の決定メカニズムに関して情報公開による透明性の確保に加えて、利用者たる住民の参加を促進する一方、客観的専門能力を有するNPO等が社会資本整備に対する住民と行政の調停者とする等、地域の需要ニーズに取り組む仕組みづくりの構築を図ることである。近時、都市計画への地域住民の参画やパブリック・インホルブメント制度の導入等、こうした動きが定着化してきている。

 四つ目は、社会資本整備を個別の縦割による単独なものと捉えるのではなく、地域トータルの計画に基づく個々の社会資本のネットワークによる有機的連携システムを構築することである。交通・物流インフラの整備に当たっては、道路網・鉄道網と空港・港湾が連携してはじめてインフラとして機能するものであり、個々のインフラの整備に当たっては、トータルとしての効果が発揮できるよう調整することにより有効利用が図られる。

 五つ目は、個別自治体は金太郎飴的フルセット主義から脱却し、周辺自治体との広域的連携による役割分担を明確化し、地域特性を生かした魅力ある施設整備へ転換することである。例えば、産業支援機能・大学等の知的インフラや文化・スポーツ施設など、多様なニーズに対応することが必要である社会資本整備に当たっては、各自治体が地域特性に基づき特色ある施設を整備し、相互連携により地域全体として総合的な対応を図る必要がある。

 以上のように、従前の社会資本整備が成長経済の中で財政的余裕があったため、不足気味の社会資本を供給先行しても無駄とはならなかったが、21世紀は厳しい財政制約の中で経済の成熟化により成長力が乏しくなるため、地域の社会資本は効率的効果的整備を図ることと、地域住民のニーズに基づく社会資本ストックの有効活用を図ることが課題となる。このためには、地方自治体と多様な地域関係者との協働による新しい社会資本の整備システムの構築が期待される。

(かけい・きはちろう)


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