<地域振興の視点> 2001/03■地域人への期待 編集委員・日本政策投資銀行 筧 喜八郎
1.市場と地域の共生システム
21世紀のわが国の地域社会は国際化や情報化の進展から地域制約が弱くなり、人々の交流の増加、物資の生産・移動の広域化、ITの発達による時間・空間を超えたネットワーク形成により、市場メカニズム経済が、益々人々の行動原理を動かしていくことは否定できない。 その一方で、成熟化や少子高齢化社会の到来は、ライフスタイルや人々の価値観の変化、高齢化による余暇時間の増大、豊かな社会の中でフロー重視からストック重視への世界観の転換等から、人々は自分の生活場所や地域を重視していく動きも、大きな潮流となっている。地方分権の進展は、中央依存型社会から、それぞれの地域が地域独自の住民本位の経済社会メカニズムを構築する社会への変化を活発化している。たとえば、街づくりでは、各自治体が住民参加に基づく都市計画づくりを指向し始めている。また、環境問題の深刻化は、地域内での再資源化や廃棄物の自地域内での処理を進めることが不可欠である。この意味では、21世紀は地域内での市場メカニズムと共存して、地域住民が主体的に社会を動かす仕組みの重要性が増していくものと思われる。ITによる情報化社会への進展は、企業社会から個人が主体となるビジネスモデルの可能性を示唆しており、個人個人の自身の生活する地域での様々な働きが、トレンドとして新たな地域社会の担い手となるムーブメントを起こしている。現在、各地域が社会システムの再構築を迫られているが、地域の自立を図るための地域主体の動きとして各地で盛り上がりをみせている。たとえば、中心市街地活性化等の街づくり運動の活発化、地域おこしを主体とする住民参加型観光の進展、福祉・介護分野や地域住民をサービス対象とするコミュニティビジネスの増加やエコマネーの導入等の動きが挙げられる。こうした動きを一過性のブームとしてではなく、新しい地域社会メカニズムとしてサスティナブルなものとするためには、市場と地域の共生システムとして構築することが求められよう。
2.地域人の活躍
地域主体の共生システムの担い手を地域人と称するが、地域人が、主体的に街づくり、観光、コミュニティビジネス、エコマネー等の動きを、リードし、支え、実践している。そこで、地域人の活躍を、ジャンルに分けて具体的にみてみよう。 第一は、地域づくりのカリスマ的リーダーが地域づくりに理念を持って指導・推進していることである。湯布院、小布施等地域づくり型観光では、地元出身のリーダーが地域の自然・歴史・文化を守り、生かし、発展させることにより地域の特色を生かした観光地づくりを率先・指導している。また、自治体の首長や職員がアイデア行政を展開し、市民参加による住民本位の地域づくりに成功している。さらに中心市街地活性化での成功事例では、商店街等地元経済界の若手リーダーが街づくりやコミュニティビジネスの担い手として旧習にとらわれず、TMO活動や魅力ある事業づくりについて地域全体をよくリードし、息の長い展開を図っている。第二は、いわゆるヨソ者が、交流者・支援者として専門的見地からのアドバイス役や新たな地域づくり役を務めていることである。各地の街並み保存や景観形成には、学者や都市プランナーが、地域づくりの構想計画および実践化のための手法や支援策の策定に貢献している。また、地域づくりや自然環境保全では、当該地域を愛好している移住者が、地域の人には気づかぬ新たな魅力づくりの形成に寄与している。今後、大学等学術文化活動の活発化、地域イベントの実施、広域連携の推進による地域への交流人口の増大は、新たな地域づくりの担い手となるヨソ者を招き入れる機会となることが期待される。
第三は、高齢者等体験・経験のある人が、観光や地域産業等のソフト面の担い手として地域活動の地道な実践役を果たしていることである。青森の三内丸山遺跡の見学や常滑、美濃、大正村等の地域づくり観光においては、「語り部」と称される地元のボランティアの方々が、地元を訪れた人々に地域の自然・文化・歴史を自らの経験をまじえて語るため、ホスピタリティのある接客として地域観光の魅力を作りあげている。また、伊賀の街かど博物館や群上八幡の遊童館では、主宰者が博物館を能動的に紹介しており、リピーターの確保が図られている。さらに、三州足助屋敷等の地域伝承施設では、地元の方々が伝統技術を実演することにより施設が生きたものとなる。
第四は、不特定多数の地域住民が地域の日常的活動、伝統的行事、地域の環境保全を維持・発展させ、地域の魅力を作りあげていることである。輪島や高知の朝市は、地域の日常活動に観光客が参画できることが魅力となる。また、青森のねぶた、徳島の阿波踊り、高知のよさこい等の祭りは、地域住民の祭りに対する熱意が集客の源となっており、see型から観光客が祭りに参画するdo型への転換が図られている。さらに、飛騨古川や群上八幡では、軒先に清流が流れる街並形成が地域住民により守られている。
第五は、若者や専門家等地域活動に意欲的なNPOやボランティアがエコマネーやコミュニティビジネスを支える役割となっていることである。介護・福祉等についてはそのサービス提供自体が価格メカニズムだけでは財政的にも維持継続が難しく、地域内の協働システムとして相互扶助や心のふれあいを重視し、地域内で持続的に提供可能なエコマネーやコミュニティビジネスを形成していく必要がある。また、循環型社会の構築、公園等の管理、自然環境保全についてもNPOが主体となって、地域としての能動的取り組みが有用となる。この他、有機農業や休耕地の活用等新しい一次産業の展開にもこの種の地域人の活躍が期待される。
以上のように、今後の地域振興を考える上で、地域人の活躍は枚挙にいとまがない。
地域人は20世紀型の企業社会での企業人、組織人とは異なり、地域の場を受け皿として、自分自身の社会活動と経済活動を共生させ、自己実現や社会貢献をモチベーションとして活動を展開する。このことは、市場メカニズムだけでは解決できぬ様々な分野で新たな役割を担うもので、住民本位の自立的地域づくりの主役として様々なタイプの地域人の活躍が期待される。
(かけい・きはちろう)
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