<地域振興の視点> 2001/08■エコタウンと地域活性化 編集委員・日本政策投資銀行 筧 喜八郎
今年度の環境白書によると、地球温暖化問題の深刻化と並んで廃棄物処理場の確保が益々困難となっており、最終処分場の残余年数は産業廃棄物で3.1年、一般廃棄物で8.8年と極めて逼迫した状況となっている。今後、わが国は、大量生産・大量消費・大量廃棄の20世紀型システムから、リデュース・リユース・リサイクルによる循環型社会システムの構築が急務となってきている。 こうしたなかで北九州市が推進している北九州エコタウンプロジェクトはわが国の環境問題への先進的取り組みであるばかりでなく、地域の自立を図るための地域振興プロジェクトとして注目されており、自治体、市民、NPO、企業、大学等様々な数多くの地域関係者が同市を訪ねている。
北九州エコタウンプロジェクトは、北九州市が全国に先駆けて同市主導の下、新日本製鐵八幡製鉄所の埋立遊休地を活用して家電・ペットボトル・プラスチック・自動車等の廃棄物を、リサイクル・リユースするための中間処理を行う事業所の新設や、北九州市内の中小リサイクル関連事業所の移転により集積を図るとともに、産学官連携により廃棄物の最終処理場やリサイクル技術に関する実証研究や技術開発を行うための研究施設群の整備を行うものである。さらに、北九州大学の環境関連学部等大学・研究所の誘致や設立を図るとともに、ゼロ・エミッション型の環境総合コンビナートづくりを行うための中核となるガス化溶融炉等廃棄物処理施設の設置が計画されている。これにより、北九州響灘地区に環境リサイクル産業の振興を機軸として21世紀型の環境共生都市づくりを行うものである。
当プロジェクトを地域振興の観点からみると、北九州市が環境問題の克服による新たな地域づくりを最重点の政策として、自治体が主導的に計画の策定・実施、プロジェクトへの支援、住民合意を図るとともに、新日本製鐵をはじめとする民間事業者が事業の主体的担い手としてリサイクル事業を運営し、また、産学官連携や大学・研究所の誘致による実証研究や技術開発を行っている。北九州市は、工業都市として公害問題を克服した歴史的背景をもち、現在、素材産業を中心とする産業構造の転換を図ることを迫られているなかで、本プロジェクトは遊休化したコンビナート用地を活用したわが国で類をみない環境産業の集積を形成し、地域の自立的発展を図るものと位置づけられる。
このような北九州エコタウンプロジェクトは、今後のわが国の地域振興を考えるうえで、下記の通りの重要な課題に対応したものであり、学ぶべきものが多い。
第1は、今後、地域が自立を図るために取り組むべきテーマは21世紀において各地域が克服すべき緊急性・重要性・戦略性を有する政策に正面から対応していることである。各地域は、環境・少子高齢化・街づくり・地域雇用創出・新規事業育成等各地域が直面している最重要のテーマを、地域自身の問題として取り組む必要がある。
第2は、自治体は、地域政策の計画の策定・実施に当たっては、地域住民に対して施策の理解を得ることが不可欠であり、また、基盤整備、関係者間の調整、政策遂行のための支援等、公としての責任を果たしていく必要がある。自治体は首長の強いリーダーシップとやる気のある職員の参画の下、選択と集中のメカニズムにより、絞り込んだ当該政策に焦点を置いて対応していくことが重要である。この際、市民の理解を得ることが最も重要であり、行政プログラムの評価システムの構築、施策の透明性を確保するための情報公開、迷惑施設等への住民合意を取りつけるためのシステムづくりが肝要となろう。
第3に、民間活力の積極的活用と市場メカニズムだけでは事業成立が厳しい場合の行政の支援スキームの確立である。地域活性化事業の担い手は民間主導であるべきである。ベンチャー的新事業の実施においては民間の創意工夫や機動的弾力的対応が不可欠であり、また採算性確保を図るためには厳しいコスト管理が重要となる。この際、行政の支援が事業成立には不可欠なケースが多いが、外部経済効果が強く認められる場合には、民間の事業を誘導するための支援スキームを事前に構築する必要がある。
なお第4は、大学・研究所等地域の核となる知的インフラの整備を図ることはもとより、産学官の連携システムの構築を図り、共同研究体制の整備や企業化への取り組みを強化することである。米百俵の故事にもあるように、厳しい国際的競争の中でもあり、地域資源として知的インフラとなる大学・研究所は、人材の育成・地域企業の技術力向上・技術開発の推進等の面で、わが国の地域が優位性をもつために不可欠である。
第5は、官民のコラボレーションやNPOの参画等地域関係者のプロジェクトへの一体的取り組みにより、地域全体としての推進体制を構築することである。環境・福祉等地域プロジェクトについては関係者の適切な役割分担とは別に、地域関係者の協働化が大切である。特に環境問題においてはゴミの分別収集システムの構築や廃棄物の発生者の高いモラルが不可欠である。
第6は、地域間競争の中で地域の優位性を確立するため、特徴ある産業・技術・人材の集積を形成することである。この際、地域の歴史・文化・資源を活用した地域に競争力ある集積を形成することにより、企業間等で規模及び範囲の経済効果が生じるとともに、他地域からの経済的吸引力が強まることも期待される。
今般、小泉内閣の経済財政諮問会議の基本方針においては循環型社会の構築を社会資本整備の重要な柱としており、また、都市再生プロジェクトとして、大都市圏のゴミゼロ型都市への再構築が具体的事例として挙げられている。北九州エコタウンプロジェクトは、循環型社会形成のための先進的役割を担う地域自らが創出した自立型プロジェクトであり、永年の北九州市を中心とする地域関係者の努力により築かれたものである。昨今の道路特定財源の見直しや地方交付税の削減等地方に対する国の支援が大きく変化していくなかで、地方分権を推進するためには地域の自立への取り組みが益々重要となってきている。このような21世紀のわが国をリードする地域振興プロジェクトを各地域が創意をもって形成することは、各地域の自立を地域自らが生み出すものであり、その発展が大いに期待される。
(かけい・きはちろう)
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