<地域振興の視点>
2001/10
 
■神戸/新たな中国人街形成プロジェクト
編集委員・一橋大学 関  満博

 ごく最近までの外国企業の誘致といえば、欧米企業が焦点とされ、ようやく一部で韓国、台湾などのアジアNIES企業に目が向き始めてきた。実際、韓国の浦項は九州で日本企業を買収、現代グループは川崎のKSPに進出、三星も鶴見に研究所を保有、台湾企業が山形の企業に資本参加、さらに中国企業も繊維関連を中心に大阪にはすでに営業拠点として100社ほどが進出するなど、事態は急角度に進展している。

●神戸・長江交易プロジェクトの推進
 以上のようなアジア、中国企業をめぐる新たな環境の中で、近年、神戸市による「新しい中国人街」形成プロジェクトが注目される。これは阪神・淡路大震災の復興事業の一つである「神戸・長江交易プロジェクト」の一環として取り組まれている。神戸沖の埋立地ポートアイランド第2期造成分に中国、アジアを視野に入れた産業拠点を形成しようというのである。
 すでにこのエリアには中国広東省の家電メーカー科龍の「開発センター」が立地しており、また周辺には中国最大の海運企業のCOSCOが専用埠頭を展開している。この地域に中国、アジア企業の一大集積を形成し、神戸経済にインパクトを与え、震災復興の中心的な役割を演じてもらおうというのである。
 そして、これに先立ち、神戸市は中国の長江流域の各都市と地道な接触を重ね、すでに江海両用船の「フォーチュン・リバー号」を97年2月から就航させている。長江流域の各都市と神戸を直接つなぎ、神戸港の賑わいを取り戻そうというのである。
 さらに、ポーアイ第2期のセンター施設であるキメックセンターには、中国の地方政府の日本事務所が次々とオープンしている。99年10月には姉妹都市である天津市、さらに安徽省の合肥、江蘇省鎮江、湖北省武漢、四川省成都、遼寧省瀋陽がすでに活動を開始し、さらに今後は、江蘇省南京、揚州、山東省青島、江西省南昌が進出する。また、逆に、神戸側は地元中小企業10社による協同組合方式で上海に「上海神戸館(上海KOBE PLAZA)」を2000年10月にオープンさせた。この神戸館は神戸ブランドの企業や製品紹介、現地での商談会の開催などを通じて、中国企業の神戸進出を促していくことになる。

●留学生の起業化促進
 そして、この「神戸・長江交易プロジェクト」の目玉事業として中国人留学生をターゲットにする「起業センター」が構想されている。その背景は、中曾根内閣以来の「留学生10万人計画」が依然として5〜6万人程度で推移している点に着目したものである。留学生が増加しない原因は長引く日本の不況にもよるが、それより日本で大学、大学院を出ても、日本に就職する機会が乏しいという点にある。彼らの多くは日本企業で数年の経験を重ね、それから母国に帰りたいと考えている。だが、日本企業の多くは留学生採用に消極的であり、彼らの思いを受け止められない。神戸のプロジェクトはこの点を突こうというのである。
 外国人が日本で最も住みやすい町として知られる神戸は、中国人、韓国人、インド人、ベトナム人が多く居住しているが、特に中国人はほぼ1万人を数え、日本の市町村の中では最も多い。そのため、子弟の教育機関、医療機関、漢方薬店、レストラン、食材店など、中国人が日本で生活するためのインフラが充実している。このインフラを背景に、中国人留学生が日本で就業、起業する場合の施設と仕組みを用意しようというのである。神戸市は、現在、関西の主要理工系大学を訪問、留学生への説明にあたっているが、反応は上々のようである。さらに、住宅を留学生向けに安価で貸し出す制度も作るなど、幅の広い対応を示し始めている。当面は「中国人留学生」と象徴的に語っているが、当然、アジア、その他からの留学生全体を視野に入れていることはいうまでもない。
 そして、先のキメックセンタービルへの中国地方政府事務所の集積、留学生の起業のための施設と仕組みを軸に、日本企業で中国、アジア進出を狙っている企業の集積、さらに中国、アジア企業の日本進出の拠点として神戸、ポーアイ2期地区をイメージしているのである。
 2001年2月には、官民一体で検討してきた『新たな中国人街形成促進研究会報告書』を神戸市長に提出、2001年度以降は、その実現に向けて取り組むことになる。

●先導事業と促進事業
 なお、2001年3月に発表された『「新たな中国人街」形成推進プラン』では、事業展開を「先導事業」「促進事業」に分けて実行していくことを明記している。
 「先導事業」は「中国アジア留学生(OBを含む)起業・就業促進プログラム」とされ、会社設立前後の留学生を対象に、@「起業・就業機会説明会」開催、A企業や研究機関への支援、B「起業・就業実践セミナー」開催、C住宅の提供、D事務所の紹介、E事業企画の募集・資金調達制度の紹介、Fビジネスサポート専門家の紹介、などを掲げている。
 「促進事業」は主に企業を対象に、@各国地方政府事務所の誘致と活動支援、A内外の企業誘致活動の展開、B「中国ビジネスチャンスフェア」の開催、C「中国ビジネス情報コンサルタント講座」の開催および「個別相談会」実施、D「上海神戸館(上海KOBE PLAZA)」の積極的活用、E「電脳神戸・長江交易会(COKOYA)」の活用、F長江流域都市における「神戸・阪神ウィーク」の実施、G華人・華僑とのネットワーク構築、H中国ビジネス団体旅行客の誘致、I戦略的なPR、等を掲げている。
 特に、中核事業として期待されている「中国アジア留学生起業化センター」整備計画に関しては、整備の3要素として、@インキュベーションセンター、A中国アジア留学生起業基金、Bコンパクトで快適な住宅、をおさえ、踏み出すことを強く意識している。
 以上のように、神戸が震災復興の象徴的な事業として取り組んでいる「神戸・長江交易プロジェクト」は、今、「新たな中国人街」形成促進という方向で動き出しつつある。官民あげて検討されてきたこのプロジェクトは、日本の各地の地方自治体の「新しい国際ビジネス展開」への一つの先導的な取り組みとして注目されているのである。

(せき・みつひろ)


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