<地域振興の視点>
2002/06
 
■都市改造に挑むボストン
日本政策投資銀行 澤田 正彦

 米国北東部マサチューセッツ州ボストン市(人口:市域60万人弱、都市圏約300万人)では、現在“The Big Dig”と呼ばれる大規模な公共工事が進行中である。これは1991年着工、2005年完成予定の総額2兆円近い大事業で、慢性的に渋滞している市内中心部の6車線拘束道路93号線を地下化し、8〜10車線にすると同時に、地上跡地を主として公園化し、93号線から東西に分岐する拘束道路90号線も東側を地下化し、港を越えてローガン国際空港までトンネルを新設するというプロジェクトである。以下でこの示唆に富んだ世紀の一大事業を概観したい。

1.事業の背景:慢性的渋滞
 ・自動車の普及に伴い州政府・市役所では1940年代から高架の高速道路の構想を検討、1950年に着工に至った。
 ・中心部7km弱供用開始した1959年当時は75千台/日だったが、2.5倍の190台を越え、6〜8時間大渋滞を招き、2010年迄には15〜16時間と予想されていた。連邦の高速道路基準適用前の古い道路ということ等から、交通事故率は都市部高速道路全米平均の4倍となっていた。
 ・また、巨大な高架道路により中心部の街が分断されたという問題も当初から重要視されていた。その結果問題点の解決策は地下化しかないということとなった。

2.事業の経過と予算金額推移
 事業の経過と予算総額の推移は表の通りであるが、予算は難工事を反映して2000年に136億ドル、2001年には145億ドルまで増加している。連邦政府と州政府関連でほぼ折半で負担している。


年/月
主 要 事 項
予算総額
(億ドル)
1983/04
環境影響評価調査開始
26
85/05
Bechtel 社 / Persons Brinckerhoff 社コンサルに決定
 
87/01
予定地区建物取得、事業所・テナント移転プロセス開始
 
87/04
議会で予算と事業計画承認/事務局設置
32
88/11
遺跡発掘調査開始
 
90/11
連邦議会755百万ドル予算措置議決
44
91/01
州環境省が環境影響評価承認(除くチャールズ川)/地盤地質調査開始
 
91/05
連邦高速道路庁建設許可
58
91/06
州と環境団体が公園緑地と交通緩和につき包括的合意
 
91/12
Ted William トンネル着工
 
92/07
州際高速道路90号線の南ボストン乗り口からTed William トンネル間着工
 
92/08
I−90 ローガン空港アプローチからTed William トンネル間着工、Central Arery トンネル工事のための市内中心部予定地事業所移転開始
 
93/02
工事関連24時間電話応答サービス開始
  
93/04
中心業務地区内でのガス管、下水道管移設工事開始
65
93/07
チャールズ川に関する追加的環境影響評価報告書提出
 
94/03
同上承認
78
95/12
Ted William トンネル業務用供用開始
108
99/10
チャールズ川新橋供用開始/アイランド公園オープン、Ted William トンネル高速90号線接続、完全供用開始
 
2002
高架高速道路解体終了
145
2005
事業完成(予定)
 

3.特色と意義
・米国史上最大かつ最も複雑な都市インフラプロジェクト
・新しい発想による事業計画:単なる道路交通のネック解消にとどまらず、地下鉄(拘束ハイブリッドバス型)新線増強による公共交通整備、建設残土利用による湾内での公園島の整備、周辺地域の再開発等望ましい都市改造へ向けた計画
・日本企業のソイルミックス(発生掘削土撹拌)工法を援用
・魅力的都市空間の創出による都市機能向上と集客力向上
・交通渋滞解消、都市機能の回復
・分断されていた都市部とウォーターフロントの一体化
・高架撤去後の跡地オープンスペース約11haの4分の3を公園化
・街並み、景観重視

 このように機能・効率・自動車優先の20世紀型発想から、建国の地ボストン市における水と緑を活かした人間性回復の21世紀型都市改造がこのプロジェクトの重要な意義である。多額の税金を投入し批判もあるようであるが、
上記の直接的効果に加え、交流人口増加・産業の集積が見込まれる他、既存市民の精神面の効果等相当な波及効果が長期間見込まれるものと思われる。
 我が国でも東京オリンピックを前に、主に空いていた河川上空空間を利用して首都高速道路が建設されたが、昨今論議されているように歴史ある日本橋は景観上も無惨な状況にある。この事業を参考として長期的視点に立った都市空間の改造・整備が望まれる。
■The Big Dig
 (出典:McNchol/Ryan Silver Lining Books 2001年)


<参考文献>
・“THE BIG DIG”−McNichol/Ryan Silver Lining Books 2001年
・“The Big Dig Reshaping an American City”−Peter Vanderwarler 2001年
・THE BIG DIG ホームページ“www.bigdig.com”
・「ビッグ・ディグ〜知識集約産業型都市ボストンの都市改造」
  日本政府投資銀行ニューヨーク事務所報告 2002年

(さわだ・まさひこ)


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