石原武政・加藤司 編著
2005/05
 
商業・まちづくりネットワーク
ミネルヴァ書房(定価4,200円、2005.2)

 世の中「まちづくり」ブームである。高齢化、環境、コンパクトシティ等々、切り口は様々であり、同時に「まちづくり本ブーム」とも言えるような状況を示している。本書も、書名だけを見ると、そんな本の一つにしか見えなくもない。しかし実際に手にとって見れば、まちづくりの本質に迫る手がかりを与えてくれるし、同時に別の課題への道筋を与えてくれるものである。
 本書は様々な分野でまちづくりに携わる実務家たちが、社会人大学院における2年間の共同研究を通じて得た成果を世に問うたものである。言ってみれば修士論文集には違いないが、その修士論文自身が実体験やそれに基づく疑問から出発したものであり、他のまちづくり本とは異なる臨場感にあふれている。
 2部構成の第1部「まちづくりと地域商業」では、商業者を支援する立場にあるもの(行政関係者や商業コンサルタント)が執筆にあたり、大阪における地域商業の立地動向や地域通貨、一店逸品運動といった商業者の新たな取組みを考察し、まちづくりに向けた商業者組織のあり方について述べている。
 第2部「まちづくりのインターフェイス」では、商業やまちをとりまくシステム(編者・加藤はこれを「サブシステム」と称している)に携わる立場にあるもの(建築士、通信事業者・公共交通事業従事者など)が執筆にあたり、まちづくりに果たすインフラの役割の大きさを明らかにしている。また異色の論調として、地域商業振興への個人の取組みを丹念に追い、まちづくりにおけるの個人の大きさが依然として大きな鍵を握る、という事実を再認識している。
 
 先に記したとおり、本書は社会人大学院での共同研究の成果である。まちづくり本と同時に、見方を変えれば「社会人大学院のあり方」に関する一つのベンチマークである。
 社会人大学院が流行しているが、その成果については教育・研究の双方にとって必ずしも満足のいくものになっていないとも聞く。「地域商業とまちづくり」というテーマで集まった社会人院生に対し、大学院で指導にあたった編著者ふたりには、かなりの苦労があったことを序章・終章を通してうかがい知ることができる。しかし本書の各論文を見ると、ゼミナールではかなり高いレベルでの議論がなされたであろうことが読み取れる。実地体験に基づくまちづくり論として世に問える水準に至っている。
 このように、本書は単なる論文集にとどまらず、テーマや執筆者、そして本書の成立過程自身が様々な示唆を与えてくれるものとなっている。まちづくり関係者はもちろんのこと、大学関係者にも広く読まれることを期待する。
(月刊『地域開発』編集部)

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