国土交通省が1998〜2002年度の中期計画としてまとめた「第12次新道路整備五箇年計画」は、国の道路政策が画期的な方向転換をするきっかけとなった。パブリックインボルブメント方式を導入して策定され、方向性が「供給量重視」から「社会的価値の重視」に変わった。
この結果、TDM(交通需要マネジメント)が道路施策の中に位置づけられ、全国で社会実験が本格的に展開されるようになった。鎌倉市等での取り組みは、見聞きしたことがある人も多いだろう。
社会実験には、以下のようなタイプがある。
@規模の大きな都市の中心部における
交通渋滞対策。
A観光地における休日の交通対策。
B郊外型店舗によって衰退しつつある
地方都市の再生手段。
C中心市街地をより魅力的にする仕掛け。
D有料道路の値段調整による一般道路の
渋滞解消。
本書は、これら社会実験の事例と課題について記したもので、次のような構成になっている。
序章では、国の道路施策の変遷について触れている。第1章では、これを受けて、実際にTDM施策を社会実験として行った各地の事例が地域の特性ごとにまとめられている。第2章からは、統計などをもとにした理論と快適な交通システムを構築するための可能性について、複数の視点から述べられている。例えば、@高齢者ドライバーの増加の見通しと対策、Aコンパクトシティへの転換に伴う交通施策の課題、B公共交通の存続問題、C施策のあり方、等である。最終章には、国の道路政策の第一線で活躍されてきた佐藤信秋氏と著者との対談を収録している。
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佐藤氏の話によると、「路地の復権」を考えたことが、この新しい道路政策のきっかけであったそうだ。そして「TDMは、都市や地域が本来の機能を発揮するために実施する『人間への社会規制』」と言う。
未来の道路は、地域社会全体によって、快適な交通環境を持つ道路として、また人々が楽しめる路地として維持していく活動がなされ、それらの活動が、さらに住み良いまちの形成に繋がっている。本書を通して、そんな未来の道路が見える。
<目次>
序 章 地域交通に未来はあるか
―TDMから交流文化の創造へ
第1章 TDM施策の実施事例
第2章 未来社会におけるTDM思想の拡大
―社会実験からの飛躍
第3章 TDMを取り巻く環境と
基本的視座の見直し
第4章 道路をより使いこなすためのTDMへ
第5章 交通混雑と公共交通
第6章 TDMの具体的推進策
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