延藤安弘 著
2006/07【びじゅある講談】 おもろい町人(まちんちゅ) 太郎次郎社エディタス(定価1,680円、2006.4)
延藤安弘の建築には深い哲学がある。それは、人間と人間、人間と物を結ぼうとする強い意志である。本書のタイトルにある「町人(まちんちゅ)」とは、相互に助け合い、配慮しあう町の人々のことである。本書はそういう町人の復活を求めて「町づくり」を行ってきた著者が、写真を豊富に使った「びじゅある講談」というかたちで書いた報告である。
本書では、名古屋、神戸、武蔵野市、京都、高知県で、著者が実現させた町づくりが語られている。巨大な公団住宅や、大きなマンションでは、住民相互のつながりが薄くなり、「隣は何をする人ぞ」の傾向はしだいに大きくなっている。著者はそのような現代人の生活様式そのものを変えていこうとする。それは困難であるが、著者はひるむことなく、住民と話し合い、役人を説得し、次々に「町づくり」を進める。例えば神戸の真野の共同住宅では、一階は集会所・食堂で、二、三階が居住階になっている。その居住階のバルコニーは各戸で仕切られてはいず、「おたがいの気配を感じあう縁側」になっている。住民はそうした作りの共同住宅に住むことによって、相互につながりのある生活を楽しむ。武蔵野市の緑町ニュータウンは住民の意向を最大限に取り入れ、住宅公団との粘り強い交渉の成果として建てられた共同住宅であり、「住民参加型建て替えの金字塔」である。著者がこうした町づくりに用いる方法は、住む人たちの意志を重視し、しかも互いに助け合うという精神を培っていくことである。町づくりをすることが、そのまま住民の意識の変化になっていく。その仕事に専念する著者の情熱が、そのまま伝わってくる本書を、評者は一種の感動をもって読み終えた。
--よってらっしゃい、見てらっしゃい。まち育ての主役、「ふつうの人」の物語。対立を対話に、トラブルをエネルギーに。全国5か所からお届けします。
(評論家・宇波 彰)
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