本書は、「社会のさまざまなセクター、政府・市場・市民活動などにおける運営の原則とその仕組みを参加ガバナンスというキーワードで組み替えていくこと」を提案する。同じ著者らが2003年に刊行した『新しい公共空間をつくる』の問題意識でいえば、公共空間の運営の仕組みを組み替える方法論として、参加ガバナンスが展望されている。コーポレート・ガバナンス、環境ガバナンス、グローバル・ガバナンス、ローカル・ガバナンスなど多様に展開されているガバナンス論を、1990年代に顕著になってきた新たな社会的事象を分析し説明する概念と、そうした事象を望ましい状態へと導いていく概念に分けると、本書は後者を目指したものである。
参加ガバナンスとは、「複数の主体が相互にやりとりを交わしながら運営していく仕組み」とされるが、他方で、「ガバナンスとは、多様な主体による問題解決の機会の創出」ともとらえられ、参加は問題解決に向けた多様な主体の相互作用ということになる。本書によると、ガバナンスは「過程としてのガバナンス」と「構造としてのガバナンス」の2側面をもつ。運営の仕組みと機会の創出というとらえ方の違いも、そうした2つの側面を表現したものといえる。
プロローグと第1章「参加ガバナンスとは何か」で概念を整理し、その意義を明らかにしたのを受けて、第2章「市民参加の新展開と自治体改革」で地方自治体における市民参加の歴史をたどりガバナンスとの関係を概観する。副題に「市民社会を強くする方法」とあるように、市民・NPO活動に支えられた市民参加が市民社会の新たな創造を担うことが期待される。第3章「まちづくりと参加のガバナンス」、第4章「食品安全行政におけるリスクガバナンスと参加」は、具体的な政策テーマについて参加ガバナンスの実態を分析し、その可能性を提言する。
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第5章「広がる経済組織の選択肢」以下では、経済活動に関わる参加ガバナンスを取り上げる。第6章「仕事の知識化と参加型経済組織」、第7章「市場経済ガバナンスとしての『企業の社会的責任』」、第8章「協同組合・社会的企業の参加ガバナンス」、第9章「社会的経済の可能性」において、市場経済と社会的経済を一体としてとらえ、経済活動の主体の問題、経済組織のあり方に言及している。最後の第10章「地域社会のイノベーション」では、長崎にある産業遺産の保全活動を事例に、地域社会のイノベーションにつながる諸要素が検討されている。
第3章で取り上げたまちづくり条例について、私ども東京ランポでは昨年秋に東京、神奈川、埼玉、千葉の市区町村にアンケート調査を行い、参加型まちづくりとそのルールづくりが広がっていることを確認したが、今後、参加ガバナンスの視点からの分析を考えている。本書は現に起きている市民社会の新たな動向を分析するという側面においても、有意義な視点を提供してくれる。前著の『新しい公共空間をつくる』と合わせて読まれることをおすすめする。
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