本書は、1930年代から70年代生まれという幅広い世代の都市社会学を中心とした研究者による論文集である。その基調となっているのは、執筆者の中で最年長であり監修者の1人でもある奥田道大氏の執筆した「都市コミュニティ研究のもう一つ先に」(第5章)である。この論文では都市エスノグラフィの展開や氏自身のこれまでの仕事を跡付けながら、都市社会学が都市の「リアリティ」をとらえてきたこと、そしてその先の都市社会学が「変容する都市コミュニティの普遍」の再テーマ化する必要性があることを提起している。長らく、そして現在も都市社会学研究の地平を切り拓き続けている筆者の言葉の重さは改めて噛み締める必要があるだろう。
この基調の下で、多彩なテーマ・アプローチ・手法による都市のリアリティをとらえる力作が並んでいる。第T部「“下からの(From
Below)”トランスナショナル・アーバニズム」には奥田氏と共に監修者となっている松本康氏による「地域社会における外国人への寛容度」が置かれ、量的調査に基づくリアリティのとらえ方が鮮やかに示される。 第U部「再構築されるAssimilationと越境移動者」では都市エスニシティに関わる広田康生、鈴木和子、田嶋淳子の各氏の論文が置かれている。いずれも第一線で活躍を続ける研究者であるが、各氏のこれまでのフィールド経験を踏まえた、新たな研究の方向を示す力作群といえる。特にアメリカを研究拠点とする鈴木氏の、在米/在日コリアンの適応を巡る日米比較は、今後の都市エスニシティ研究に大きな刺激となるものであろう。
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第V部「いま改めて『第3の空間(Thirdspace)』=大都市インナーシティを磁場として」では前述の奥田論文に加え、インナーシティをマクロとミクロの両面からとらえる渡戸一郎氏の「インビジブルシティを読み解く」が収録されている。第W部「新版・アーバン・エスノグラフィに向けて」に収められた6つの論文(三田知実、石渡雄介、グラシア・ファーラー、景山佳代子、藤原法子、竹沢泰子の各氏)は、文化人類学の領域で大きな成果を挙げている竹沢氏を除いて1960年代後半から1970年代生まれの若い著者たちによる「都市のリアリティ」をとらえた作品群である。瑞々しい感性が光るこれらの論文群には特に注目しておきたい。そして第X部「終章・先端都市社会学の地平を拓く」では佐藤健二氏の都市エスノグラフィの知識社会学ともいうべき「読解力の構築」が収録されている。
以上のように本書の構成は極めて幅が広く、焦点がないようにすら見受けられる。しかしこのことは現代における都市と都市社会学の多様性を示しているとも考えられる。この意味では本書のタイトル『先端都市社会学の地平』とは「先端の都市社会学」の地平であるとともに、「先端都市」を巡る(都市)社会学の地平であるともいえるだろう。 |