地域開発の失敗をジャーナリスティックに糾弾する本は多いが、本書は違う。1つの地域で行われた巨大開発事業について、事実関係を念入りに精査・分析し、その結果を踏まえた評価を、どちらかといえば淡々と述べている。
単に失敗といっても、地域開発計画の目的、事業が及ぼす影響、その影響の原因となる事象は様々だ。経営的には赤字であっても、公共的な意義が高ければ、多少の赤字を覚悟してもやらなければならない事業もある。需要予測に多少の読み違いがあっても、もし地域振興や地域間格差の是正に良い影響を与えれば、それなりに評価されてよい事業もあるだろう。また国が主導したから、第三セクターだったから、ということだけでは、失敗の直接の原因とすることはできない。
その意味でも本書には、様々な項目について、冷静に因果関係を読み解き、合理的な答えを出せる論者が揃っている。事業自体の経緯の詳細、国の政策との関連、自治体財政への影響、推進母体となった第三セクターの経営状況の変化、周辺農村コミュニティの変容、工業団地における産業集積の状況、といった多様な項目について、それぞれの専門家が、具体的な情報を吟味して評価を下している。
それだけに、彼らが共通して述べる事実は重い。苫小牧東部開発計画が、石油ショックによる景気減退の影響を差し引いたとしても巨大に過ぎたこと、そして国からの上意下達の計画が見込みの薄い事業の惰性的な継続につながっていったこと、こうしたことの背景と問題点が、 本書 |
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の中で具体的な形で浮き彫りになっている。日本の輝かしい高度成長期の地域開発における負の部分、その中でも公害・環境対策とは異なり今に至るまで根本的な改善がほとんど図られていない、地域開発システムの重大な欠陥について、これから地域開発を担う人たちも本書を通じて学んでおいた方がいいだろう。
さて今後の苫東だが、小坂(第5章)や山本(第9章)が述べるように、自然共生型の土地利用として活かす、森林に戻すといった方法を、本気で考えるべき時期なのかもしれない。失敗は失敗として認め、地元の発意によって今考えられるベストの政策・事業を行うという考え方が重要ではないだろうか。
国土形成計画の策定作業が現在、進められている。この苫東の教訓がどのように活かされるか、固唾を呑んで見守っていきたいと考えている。 |