佐々木雅幸・総合研究開発機構 編

2007/08

 
『創造都市への展望――都市の文化政策とまちづくり

学芸出版社(定価3,780円、2007.04)


 本書は、「創造都市」に関するわが国の取り組みを「理論とガバナンス」そして「政策実践の現場」の両面から、その現在を浮き彫にしようとするものである。
 近年、世界中で創造都市論が注目されている。わが国における同論の第一人者である編者・佐々木雅幸氏は、創造都市を、バルセロナを例に4つの理由、すなわち@芸術創造のエネルギー、A創造産業群の発展、B市民の自治意識の高さ、C人類普遍の価値ある行動を提起する力量に富んだ都市、により定義づけ、都市の文化と“創造性”が都市政策の中心に移ってきたと述べる。
 本書でも、その系譜について述べられているが、この都市概念は、1980年代、製造業の衰退により都市の産業の空洞化、人口減少、治安の悪化等が深刻な都市問題に直面した欧州の“地方都市の危機”を背景として、その再生のために提唱された都市政策論である。1995年、Ch.ランドリーとF.ビアンキーニが取りまとめた小冊子『創造都市』で紹介され、続く2000年にはランドリーによる『創造都市―都市イノベーターのための道具箱』が発表されている。
 本書では、まず、第1部でこうした「創造都市」の概念を、加茂利男氏が同じグローバル化によって生み出され、対立する都市概念である「世界都市」との対比による都市概念の変遷をもって論じる。続く章において、佐々木氏が創造都市の概念を定義した上で、その後の各章において語られるのは、「コンパクトシティ」「文化政策と産業政策の統合」「民間と公共」そして「多文化共生」、最後に「メルクマール(指標化)」が論じられる。
 第2部では、北は札幌から南は福岡まで、全国で取り組まれている創造都市への現場の実践へと引き継がれる。
   本書から導き出されるのは、まず、都市の“創造性”に対する多様な視点である。副題に示された「文化政策とまちづくり」は、単に文化を「芸術文化」として捉えているものではない。創造都市とは「文化都市」という短絡的な都市論ではなく、従来の開発型の都市運営に対するアンチテーゼの諸相を包含する都市概念であることがわかる。
 その一方、この都市概念が(少なくともわが国においては)未だ過渡期にあることがわかる。創造都市の多様な視点の中に解決の方向が漠然と見えながらも、20世紀の“負の遺産”が依然として対立要素として残されていることが示されている。そのため、終章の提言も、都市政策に係る行政運営のあり方に留まっている。
 欧州発のこの都市概念が、今後、わが国においてどこに向かうのか。今後の方向性と都市の諸問題の解決の糸口を探すための最新の書であることは間違いないだろう。
(大阪デジタルコンテンツビジネス創出協議会・杉浦幹雄)

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